【舞台探訪】『聲の形』(原作):第6巻

【注意!】当記事では原作の内容の詳細について触れることになります。原作未読の方でネタばれを避けたい方はここから先へは進まないでください。

大今良時さんの漫画『聲の形』の舞台探訪の記事、今回は第6巻の紹介です。 

聲の形(6) (講談社コミックス)

聲の形(6) (講談社コミックス)

 

→前回までの記事はこちらです。
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第1巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第2巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第3巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第4巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第5巻
→本稿以降の記事はこちらです。
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第7巻

■第6巻について
「私と一緒にいると不幸になる・・・」。その言葉に抗うかのように、硝子の前では笑顔で振る舞う将也。その姿を見るごとに募っていく硝子の苦悩。そんな硝子が選んだ決断は自分がこの世からいなくなってしまうことでした。転落する硝子の腕を命がけで掴む将也の脳裏をかすめる様々な想い。二人が出会っていなければこんなことにはならなかったのか。これは運命なのか。小学生時代の因果にどこまでも呪縛される二人。そして硝子の身代わりのように落下していく将也。果たして二人の未来は・・・。

第6巻は将也が意識を失っていることで物語の語り手が不在となります。そのため、この巻では登場人物ひとりひとりの内面に章が割り当てられ、彼もしくは彼女たちの独白が続きます。その「心のこえ」を語らせる構成が見事です。そして各章の語り手にそっと黒い天使のように近づき、まるで触媒のようにその心に変化を与えていく硝子。将也の不在を巡る巨大な空洞の周囲で登場人物たちの心の有り方が変わっていきます。

 

■舞台探訪 『聲の形』(原作):第6巻
※各シーンの場所情報はGoogle Mapにまとめてあります。各々の場所を確認されたい方は、当記事末尾に掲載しているMAPを拡大してご覧下さい。

表紙絵
美登鯉橋 MAP 03
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第2巻の表紙絵の解説で書いた文章を再掲します。

『聲の形』のコミックスの表紙絵は、毎回、その巻を象徴する場所を背景として左に将也、右に硝子の立ち姿が描かれています。将也の目線は一定ではありませんが、硝子は必ずこちら(本を手に取った私たち)を見ています。例外は第6巻で、この巻のみ将也の姿はなく、硝子がただ一人虚ろな表情で水底を眺めています。

第6巻では物語の語り手である将也がマンションの階上から落下して意識を消失しているため、この巻では実質的に不在となります。そのため、表紙絵からも彼の姿が「消えている」訳です。水底から透かして見たようにゆらゆらと揺らめき歪んだ美登鯉橋と四季の広場。ぼんやりと虚ろな目線でひとり佇む硝子*1の足下は水中に沈んでおり、彼女自身も揺らめく幻影のようです*2。将也の不在を前に登場人物の誰もが意識の奥底で揺らめく「心のこえ」と向き合うことになる第6巻の表紙絵は、これ以上ないほどの象徴性をもって本巻の本質を描き出しています。

*1:その視線の先は、画面左側にいるはずの不在の将也を見つめているかのようです。

*2:『聲の形』の原作はカバーをはがした書籍本体の表紙にモノクロの原画が描かれています。第6巻の本体表紙を見ると、カバーに描かれた絵の歪みや揺らめきが原画時点のものではなくエフェクトをかけられたものであることがわかります。

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