『あの花』の第3話以降はまだ取材に行っていませんので、今の時点でアップできる写真はありませんが、第5話でつるこが読んでいた文庫本が分かりましたので、モノも作品を構成する重要な舞台のひとつという観点から今回はモノ探訪という趣旨でご紹介します。
当記事に掲載した『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の画像は、著作権法第32条に定める比較研究を目的としての引用であり、当該画像の著作権は全て©ANOHANA PROJECTに帰属します。
第5話で駅のベンチに腰掛けてつるこが取り出した文庫本。画面ではほんの一瞬映るだけで肉眼での視認は不可能ですが、画像を止めてコマ送り(デジタルの時代でもついこの表現を使ってしまいます)すると、ページの端に「イゴイストはいけ…」と書かれているのが確認出来ます。
これは、夏目漱石の『こころ』に出てくる一文です。
父の病のため実家に帰省していた<私>が実兄と会話する中で、<私>が尊敬している<先生>が、大学教授でも何でもない唯の高等遊民であることを兄から皮肉まじりに中傷されるという場面です。
「(略)兄は何かやれる能力があるのに、ぶらぶらしているのは詰まらん人間に限るといった風の口吻を洩らした。「イゴイストはいけないね。何もしないで生きていようというのは横着な了簡だからね。人は自分のもっている才能を出来るだけ働らかせなくっちゃ嘘だ」(夏目漱石「こころ」 中「両親と私」第15章)
ここでこの一節をつるこが読んでいる象徴的意味を、直前のゆきあつとの会話の中に見出すことも不可能ではありませんが、ただの深読みでしかないように思えますので、ここでは控えます。
ただつるこが手にしていた文庫本がどこから出版されているかについては、現在、刊行されている岩波・新潮・角川・文春・ちくまの各文庫の文章の配列を確認してみました。
結論としては、左ページ端に「イゴイスト・・・」の一文が配されているのは文春文庫だけで、後の出版社のものは該当しませんでした。
ということで、文春文庫版(『坊っちゃん』を併録)を購入して、キャプと合わせてみたのが上の右側の写真という訳です。
(2011/06/13 記)
- 作者: 夏目漱石
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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【舞台探訪・聖地巡礼の心得】
舞台として描かれる場所は一般市民の生活空間であることが多いため、現地訪問に当たっては、以下の各項目にくれぐれもご留意下さい。マナーと心配りをお忘れなく!
1.近隣住民の方々の迷惑となるような行動は慎むこと。
2.プライバシーの侵害となるような行為はしないこと。
3.学校や個人宅に無断で侵入しないこと。
4.撮影時の道路への飛び出しなど危険な行為はしないこと。
5.撮影が許可されていない場所の撮影はしないこと。迷った場合は関係者に撮影可否の判断を求めること。