【音楽】30年目のお蔵出し:「ラジオパラノイア」聴取雑感(第2回)

(第1回配信時の記事はこちら)
深夜2:00から「ラジオパラノイア」第2回目のUST配信を聴いた。今回のこれは1980年12月28日放送分とのこと。早朝5:00までの3時間完全放送。しかも当時の放送時刻と合わせているので、深夜の解放区的な気分まで追体験できる。


DJスネークマン(小林克也)の「レーディオー!パーラノイアー!」の雄叫びから間髪入れずに流れ出す1曲目、Talking Headsの"Born under Punches"で、いきなり意識を持って行かれる。


Talking Heads - Born Under Punches (The Heat Goes On)


前回放送分と同様、スネークマンショーのコントは全て覚えていた。初耳のネタがなかったのはやや寂しくもあったが、それ以上に次々繰り出される当時の最先端の音楽に終始興奮しっぱなしだった。


眠気はあったものの朝5:00まで全て聴き通した。夜が白み始めた頃に流れ出したBrian Enoの"First Light"(この曲をAMラジオの音声で聴くなんて初めてだ)、David Bowieの"Ashes to Ashes"、Talking Headsの"Listening Wind"の流れは、長時間の興奮を鎮静剤のようにチルアウトさせ、とりわけ心に滲みた。

David Bowie - Ashes To Ashes


この頃のポピュラー音楽、とりわけPunk以降に現れたNewWaveシーンの音楽は、今聴いてもなぜこれほどまでに新鮮なのだろう。前回聴取時にも同じことを感じたが、これはあの時代をリアルタイムで過ごした人間の個人的な感傷や単なるナツメロ気分だけではない。


確実に今の音楽が失ったものがここにはあり、音楽がまさに文化の中心であった(音楽が世界を変えるか否かという議論を真剣に闘わせることの出来た)時代の、新たな世界を切り開こうとするエナジーがドクドクと脈打っている。何か新しいものが生まれるその瞬間を目撃しているようなスリリングな体験を味わうことの出来た時代。ラジオの前に釘付けになって離れることの出来なかった時代・・・。


「ラジオパラノイア」は計2回放送された。今回の配信は、先日6/10(金)放送分以上に80年代初頭のNewWaveシーンを俯瞰するような選曲で一杯だった。フェリーニの映画「サテリコン」のサントラや、よくわからない時代劇の一部といった音源も混じっていたが、総じて当時の最先端のRockの魅力にどっぷり浸れる3時間だった。


選曲はざっと以下の通り。
(※曲名/アーティスト名のどちらかが分かったもののみ列挙する。「曲名不明」は単に私が知らない曲という意味。アーティスト名すら分からない曲を含めると放送された曲数はもっと多い。)

 ・Born Under Punches /TALKING HEADS
 ・曲名不明/JAMES BROWN
 ・007 Goldfinger/SHIRLEY BASSEY(サントラ)
 ・Living through another cuba/XTC
 ・When The World Is running Down/THE POLICE
 ・曲名不明/B-52's 
 ・Whip it/DEVO 
 ・アルタネイティブ・サン/ヒカシュー
 ・彼女について知っている二、三の事柄/ムーンライダーズ
 ・TIGHTEN UP (JAPANESE GENTLEMEN STAND UP PLEASE) /YMO
 ・ルムバ・アメリカン/加藤和彦
 ・サテリコン(サントラ)
 ・Come on in. Coke'80 (THIS IS A SONG FOR COCA-COLA)/矢沢永吉
 ・曲名不明/アナーキー
 ・曲名不明/SPY
 ・BIJIN-KYOSHI AT THE SWIMMING SCHOOL/高橋幸宏
 ・Hungry Heart/BRUCE SPRINGSTEEN
 ・RaptureBLONDIE
 ・曲名不明/JOHN LENNON
 ・Starting Over/JOHN LENNON
 ・Loveless Love/THE FEELIES
 ・First Light/BRIAN ENO
 ・Ashes to Ashes/DAVID BOWIE
 ・Listening Wind/TALKING HEADS
 ・曲名不明/NEIL YOUNG
 etc.


あらためてこの当時、Brian EnoTalking Heads(とりわけデヴィッド・バーン)の存在がいかに突出したものであったか、彼らの作りだすサウンドが一体どれほど多くのミュージシャンやクリエイターに影響を与えてきたかが良く分かる。そういえば、トーキング・ヘッズのアルバム「Remain in Light」は、ニューウェイブ・キッズ御用達のマストアイテムだった。


ジョン・レノンがダコタ・アパート前で凶弾に倒れたのは、この放送の20日前の1980年12月8日のことである。その衝撃と動揺がまだ冷めやらぬ時期にこの番組は制作されている。それは選曲にも表れている。レノンが2曲チョイスされているのは追悼の想いを込めてのものだろう。


それにしても、久しぶりにAM放送の音声で聴く音楽のなんと耳に心地良いことか。
余計な高周波をカットしているから聴覚に負担がかからないためなのか。このくぐもった音でこんなcoolな音楽を聴いていると、ハイファイとは何なのかと思う。


5.1サラウンドがいかほどのものであろうと中身のない音楽を高性能の音響設備で誤魔化しているだけでは意味が無い。音質をどれだけ綺麗に飾ったところで本質は何も変わらない。ハイファイ化は本質のカモフラージュ、私達の想像力を奪う装置でしかない・・・などと不遜にも思ってしまう。最近、こんな音楽専門のAM放送があるのだろうか。


最後に強調しておきたいのは、これは30年も前の放送であり、30年も前の(或いはそれよりも昔の)音楽だということだ。音楽は果たして進化したのだろうか、退化したのだろうか。


確かなのは、私は今もこの時代の音楽を心の底から楽しんで聴いていられるということ。
それだけだ。


(2011/06/19 記)