読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

【小論】『映画けいおん!』のキー・ビジュアルの背景がキングス・ロードである理由についての一考察

小論 映画けいおん! 音楽

1.キー・ビジュアルの背景を巡る二、三の事柄
"London calling at the top of the dial" - London Calling / The Clash*1


いよいよ『映画けいおん!』の公開日12/3(土)が近づいてきました。


2期TV放映の最終話(第26話)でEDタイトルが流れた後、唐突に告知された劇場版の製作発表。最終回の余韻の中で、深い喪失感の中にいたファンを狂喜させたあの日*2から1年余りが経ちました。随分先の出来事のように思えていた映画公開日も指折り数えて待つほど目前に迫ってきています。

けいおん!!』第26話ED直後に流れた映画制作告知の映像。ファン狂喜の瞬間


映画けいおん!』のキー・ビジュアルは今年の8月の終わりに公式サイトで発表されました。
事前に聞いていた情報通り、ロンドンへの卒業旅行が物語の軸となることをあらためて知らされた訳ですが、私は当初から、この場所がキー・ビジュアルの背景に選ばれたことが不思議でした。なぜよりによってこの場所なのでしょうか?

5人の背後に広がる郊外の瀟洒な町並み、横長で品のある木製のベンチ、画面左側にわずかに見切れているダブルデッカーの赤いボディー、右奥には教会の尖塔らしき建物。


この場所がどこであるのかを巡っては、キー・ビジュアル公開直後からネット上で様々な推測が成されましたが、予想外に早くその場所は特定されました。この風景はロンドン西部の郊外にある高級住宅街Chelsea(チェルシー)、その一画にあるPark Walk(パーク・ウォーク)を北向きに見た構図で、画面右側の奥に見えるのは、St.Andrew’s Church(セント・アンドリューズ・チャーチ)の尖塔です。教会のホームページはこちらGoogle MAPではこの位置に当たります。



2.なぜこの場所なのか?
"Out in the street I'm walkin' 'bout slowly…" - Out In the Street / The Who


ここで率直な疑問があります。
この絵を見て一目でロンドンと分かる人がどれだけいるでしょうか?


申し訳程度にダブルデッカー2階建てバスという"記号"が描き込まれているからロンドンと識別できるようなものの、もしこの車体を画面から消し去り、かつ何の事前情報もない人に見せたとしたら、どうでしょう。ロンドンの街並みに精通している人や建築様式に詳しい人なら、左右の建物や尖塔の形状から推察可能でしょうが、それはごく一部の人に限られます。大多数の日本人は"ヨーロッパのどこか"といった程度の曖昧な認識しか持ちえないのではないでしょうか。


映画のメインの舞台がロンドンであることをアピールするなら、もっと一般的で広く認知された「ビッグ・ベン」や「タワー・ブリッジ」や「バッキンガム宮殿」などを背景に描くのが普通です。制作側が物語の舞台として公認していない京都や豊郷を背景に描くのとは全く意味が違います。「ああ、彼女たちは卒業旅行でロンドンへ来たのだな」と一見して分かるような"記号"を盛り込むのが常套手段のはずですが、あえてそうしていません。


一方で、後に公開されたトレーラー(予告編)の映像には、しっかりロンドンの観光名所が登場します。

予告編に登場したロンドン観光名所の数々。左からタワー・ブリッジ、ビッグ・ベンアビイ・ロード


ということは、有名観光地もちゃんとロケハンしているが、それらの風景は敢えてキー・ビジュアルには使わないという明確な意図がそこに働いていたのではないでしょうか。


私が奇異に思ったのはこの点です。
映画広告の「顔」ともいうべきビジュアルの背景に、一見してロンドンとは分かりづらい場所をわざわざ選んだのは何故なのでしょう?


映画製作に当たってスタッフはロンドンへ2回ロケハンに行っています。時期的には「けいおん!!ライブイベント~Come with Me!!~」の前後とのことで、各種インタビュー記事を綜合すると2010年12月と2011年2月頃と推察されます。幾つか発言を拾ってみましょう。

TBS中山プロデューサー:
(イギリスへはロケハンへ)行きました。山田監督や堀口(悠紀子)さんたちも一緒に、メインスタッフみんなで。
(「アニメージュ」2011年10月号)


山田尚子監督:
2月のライブイベントの前と後に1回ずつ。実は、あのライブイベントの前には映画の舞台は決まっていたんですよ。ただ、どういうストーリーにするかは決まっていなくて。イギリスではこの場所に唯たちがいたらどうだろうとか(中略)ストーリーのヒントを探すのがメインでしたね。
(「アニメディア」2011年10月号)


吉田玲子さん(脚本):
あの5人ならこの街で何を楽しむだろう、どこで演奏したがるだろうって考えながら歩きました。ライブハウスもたくさん見て回りましたよ。
(「日経エンタテインメント!」2011年12月号)


おもな観光スポットを回った上で、『けいおん!』らしい場所としてカムデンというロックファッションの街や、デンマークストリートという楽器街、アビーロードに行きました。
アニメージュ 2011年12月号)

これらの発言からは、放課後ティータイム(HTT)のメンバーが存分に動き回れるための舞台探しがロケハンの目的であったことが窺えますが、そもそもキー・ビジュアルの場所は、ロンドン中心部から外れた郊外にあるだけでなく、ショップの集中しているスローン・スクェア周辺からも離れており、格別にガイドブックで特集されることもないような辺鄙なエリアです。端的に言えば観光地ではない住宅街の一画です。


地球の歩き方」を初めとする市販されている計6冊のロンドンのガイドブックを全て確認しましたが、この界隈の特集記事は発見できませんでした。周辺の拡大図すら載っていません。

セントラル・ロンドンのMAP。赤い四角の囲いがキー・ビジュアルの場所。なお画像は研究目的のために「地球の歩き方(A03 ロンドン 2011~2012):ダイヤモンド社」から引用させて頂きました。


郊外の住宅地をキー・ビジュアルの背景にするという前提があったのだとしても、ロケハンに行ったと思われる有名観光地からはそれなりに距離があるので、事のついでにこの場所を偶然発見したというのはちょっと考えられません。初めから何らかの意図を持ってピンポイントでこの界隈へ来る目的がなければ通りかかることもないはずです。


この場所がキー・ビジュアルとして選ばれた理由。それは一体何なのでしょうか?



3.ひとつの仮説
"In '70 we all agreed A King's Road flat was the place to be…" - Saturday Gigs / Mott the Hoople


そのヒントはGoogle Mapで正確な位置を把握したことで得られました。


ロンドン西部の高級住宅街であるチェルシー地区を北東から南西に貫くKing's Road(キングス・ロード)と、そこから北西に向けて伸びるPark Walk(パーク・ウォーク)との接点。それがこのキー・ビジュアルの場所です(【MAP】)。キングス・ロード?聞き覚えのあるその名前を頭の片隅に留めながら地図を確認した瞬間、頭の中で幾つかの情報が繋がり合いました。


キングス・ロード。そこはカーナビー・ストリートと並び、1960年代半ばの"スウィンギン・ロンドン"を代表するファッショナブルな通りとして知られています。今でこそ落ち着いた感はありますが、かつてはロンドンのサブ・カルチャーの情報発信源のような場所でした。


しかし私などは(ここで声を大にしたい)、キングス・ロードはロンドン・パンクの仕掛け人マルコム・マクラーレンヴィヴィアン・ウエストウッドがファッション・ブティック「SEX」*3を構えていた通りであり、この店にたむろしていた連中を集めて結成されたのが、かのセックス・ピストルズだったという曰く付きの場所という印象が強いのです。ここはロンドン・パンク隆盛の起爆剤となった場所、UKのパンク・ムーブメント発祥の地。つまり、アビイ・ロードとはまた違った英国ロックの「聖地」なのです。

キングス・ロード430番地。営業当時のブティック「SEX」。1976~77年頃の撮影か?
映画『NO FUTURE』(ジュリアン・テンプル監督:2008年)より。


店舗は「World's End」と名前を変えて現在も営業中。高速で逆回りする13時間一周の大きな丸時計が目印(Google SVより)。

「World's End」の正面(Google SVより)。


ブティック「SEX」は、1979年に「World's End」と店名を変えましたが、現在もファッション・デザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッド*4の本店として営業しています。店舗の場所は往時と同じくキングス・ロード430番地。そしてこの伝説の店は『映画けいおん!』のキー・ビジュアルに描かれている場所のほんの目と鼻の先にあるのです(約60~70mの距離)。

ブティック「SEX」の前を歩くシド・ヴィシャス。映画『NO FUTURE』より。

「World's End」前から東方向を見た光景(Google SVより)。赤丸印の左側辺りが『映画けいおん!』のキー・ビジュアルの場所。

赤丸印の辺りから左方向を見た風景(Google SVより)。



以下は、現地の最新の写真です。
10月末にロンドン~フランスの旅行に行って来られた舞台探訪者コミュニティ(BTC)の仲間であるたちきちさんから、現地で撮影された写真をご提供頂きました。ありがとうございました。

この写真は、私が「World's End」の店舗の場所をたちきちさんに事前にお伝えして撮影してきて頂いたものです。(現地時間:2011/10/31早朝。たちきちさん撮影)

木製のベンチは実はパーク・ウォークに向かって斜め向きであることが分かります。
(現地時間:2011/10/31早朝。たちきちさん撮影)



4.いくつかの傍証
"Well I just couldn't let her go…" - Train Kept a Rollin' / The Yardbirds*5


ここでひとまず、次のような仮説を立ててみます。

仮説:
キー・ビジュアルとして選ばれたこの場所は、スタッフがロケハンでかつてのブティック「SEX」、つまり現在の「World's End」を訪ねに行く道中で発見されたものではないか?

「World's End」への訪問理由は、そこがロンドン・パンクゆかりの地であることを知っていた人の手引きである可能性と、ごく単純にヴィヴィアン・ウエストウッドのショップに行ってみたという2つが考えられます。


TBSの中山プロデューサーの発言に以下のようなものがあります。

中山プロデューサー:
(中略)最初は僕らも土地勘がないので、脚本を書くためにシナハン(シナリオハンティング)へ出かけたんです。放課後ティータイムの5人が行きたい場所は想像がついても、電車に乗ったり、歩いたりして無理なく目的地に到着できるのかどうか、それがドラマになるのか、などを精査するためです。唯たちと同じ空気を吸って、街の様子をシナリオに反映できたのは貴重でしたね。
(中略)そのあと、ある程度脚本ができたところで、美術設定やレイアウトに必要な取材をする旅・・・いわゆるロケハンに出発。音楽スタッフも含めて、制作スタッフの主要メンバー全員で海外へ。その時の体験が作品にある種のリアリティーを与えているはずです。
(「電撃G's magazine」2011年12月号)

「音楽スタッフも含めて」ロケハンに行ったという箇所に目が止まります。具体的な名前はここからは分かりませんが、音楽プロデューサーの小森茂生さんや磯山敦さん、サントラ担当の百石元さんらが参加していた可能性は高いと思われます。


ビジュアル面の取材が目的であるロケハンに音楽スタッフを同行させるというのが、映画作りにおいてどの程度の頻度で行われているのかは寡聞にして知りませんが、実写映画でもイメージボードやラッシュフィルムを見てサウンドトラックを制作するのが一般的であることを思えば、これはかなり異例の出来事だと思います。


脚本や作画のスタッフが現地で受ける印象を音楽スタッフも同様に共有しておいてもらおうという主旨だったのかもしれません。しかし、逆に言えば「ロックの聖地」ロンドンを制作スタッフに紹介できる水先案内人として、これ以上うってつけの人材は他にいなかったはずです。


更に豊崎愛生さんへのインタビュー記事の中に見逃せない発言を見つけました。

豊崎愛生さん:
アフレコをして思ったのは、ロンドンの名所はたくさん出てきますが、あくまで軽音部の視点でのロンドンなので、観光名所はわりと素通りしている部分があって面白いと思います。監督たちはロンドンのロケハンで、ここに来たら唯たちはこういう会話をするよねって話し合いながら、街を回ったと聞きました。ヴィヴィアン・ウエストウッドの本店があって超寄りたくて!欲しいバッグがあって」みたいなふうに話す山田監督を見ていると、こんな女の子らしさが映画にちゃんと入っているんだなぁと思いました。
(「アニメージュ」2011年12月号)

どうやら山田監督は「World's End」の存在を最初からご存知だったようです。女性ですからファッションに敏感に反応するのは当然として、豊崎さん経由で伝わる山田監督の浮き浮きした言葉のニュアンスから察するに、ロケハンの際に「World's End」へ立ち寄ったのはほぼ間違いないようです。


更に深読みすると、社内でも音楽好きとして知られているという山田監督*6のこと、憧れのヴィヴィアン・ウエストウッドの本店がロンドン・パンクの重要な聖地であることを知っていた可能性は大いにあります。


これでキングス・ロード沿いのとある街角でキー・ビジュアルの場所が発見されるに至った経緯を推断する上でのミッシング・リンクがある程度見えてきました。


ひとつめは・・・
山田監督のお目当てのショップ"World's End"がキングス・ロード沿いにあったこと。


ふたつめは・・・
ロケハンに音楽スタッフが同行しており、ロックの聖地のひとつであるこの店の重要性を制作スタッフに伝え、現地まで案内することが出来た可能性があること。


みっつめは・・・
他ならぬ山田監督自身が大の音楽好きであり、お目当ての店であるというだけに留まらず、そこがパンク・ロックの聖地であることも含めてご存知だった可能性が高いこと。


これらの内のどれか、乃至は複数の要因が重なり合った結果、キングス・ロード沿いのこの区域でこの場所が発見されたのではないかというのが私の結論です。


そしてこの一見何の変哲もない住宅街を背景とした理由、別の言い方をすれば観光名所をキー・ビジュアルにしなかった根本的な理由については、恐らく脚本の吉田玲子さんと山田監督の次の発言が有力な傍証となるでしょう。これは『けいおん!』の基本的な制作方針でもあります。

――(ロケハンで)吉田さんが特に印象に残った場所はどこですか?


吉田玲子さん:
街並みですね。ホテルから少し歩いたところにキレイな家が並んでいる一画があったんです。かわいい壁があったりして、唯たちはこういう場所を喜ぶよねって。(彼女たちは)観光名所は「あー、あったねー」くらいですませて、むしろ普通の街並みに目が行くんじゃないかと話し合いながら歩きました。
(「アニメージュ」2011年12月号)


――映画の舞台は海外ということで、スケールが大きくなりますが、いつもの軽音部とは違う一面も見ることもできますか?


山田監督:
けいおん!』でいつも大事にしていることは"外に出ても部室"ということなんですね。だから外国に行っても、どこに行っても、軽音部は軽音部です。海外で大ハッスル!というよりは、海外でものほほんとした感じで、本当にいつも通り。もしかしたら背景が変わっただけというか(笑)。
(「spoon」2011年12月号)

ポイントは下記の2点です。


1.修学旅行編がそうだったように、観光名所を大人しく回るのではなく、普通の街並みを好奇心いっぱいで走り回っているのが彼女達らしいということ。


2.軽音部の5人はいつでもどこでも軽音部、たとえ海外へ行ってもそのノリは部室にいる時と何ら変わらないということ。


放課後ティータイムは、いつまでもいつまでも放課後です!」という唯の言葉は、アニメ『けいおん!』を読み解く上での重要なキーワードです*7。この想いを映画の「顔」として表出するためには、よそ行きではない普段のままの彼女たちの姿を、決して特別ではない日常的な風景の中で描く必要があった。だからこそ観光名所ではないこの場所が選ばれたのではないでしょうか。それは物語を根幹で支えるモチーフに沿った必然的な選択だったのだと思います。


その一方で、この界隈は英国ロックの歴史的分岐点となった知る人ぞ知る「聖地」のひとつであり、その一画(このベンチのある場所が車道と車道の間に挟まれた安全地帯のような空間であるというのも象徴的です)が映画の「顔」に選ばれたという事実に特別な感慨を持ってしまいます。『けいおん!』ファンであると同時に大のブリティッシュ・ロックのファンである私にとってそれは何か特別なことのように思えて仕方ありません(私だけかもしれませんが)。


仮にこれらの考察もどきが実は全くの見当違いで、全てが偶然の積み重ねでしかなかったとしても、それはそれで"ロックの神様の粋な思し召し"としか言いようのないこの巡り合わせをとても面白い出来事だと思ってしまうのです。



5.そして・・・
"As long as they gaze on Waterloo sunset, They are in paradise" - Waterloo Sunset / The Kinks


アニメ雑誌等での関係者の発言を綜合すると、今回の劇場版でもって『けいおん!』シリーズの全てが終わる様子です。春から原作が再開したことでもあり、将来的にはTVシリーズ3期の可能性もない訳ではありませんが、一旦ここで終止符を打とうというのがアニメ制作側の姿勢なのでしょう。

――映画化が発表された当初は、唯たちの大学生の話になるんじゃないかという、噂もありましたよね。


山田監督:
その話も無きにしもあらずという感じだったんですけど、唯たちにはやっぱり制服を着てほしいと思ったんですよ。だから制服で、どうしても学校という舞台を取り入れたくて、本気で話を作りました。
(「spoon」2011年12月号)


けいおん!』は高校を舞台にした物語だからこそ輝いていたと思うんです。(今回の劇場版制作に当たっては)人生に一度きりの高校時代を存分に描こう、唯たちに制服を着せるために本気を出そうと腹を括りました。
(「日経エンタテインメント!」2011年12月号)


――監督の中で『けいおん!』とはどんな存在になりましたか?


山田監督:
もう会えなくなったらどうしようっていうくらいに、彼女たちに愛情が芽生えてしまいました。最初の頃は友達のような感じで接してきたけど、だんだん母性に変わって、愛おしい気持ちの方が強くなって。でも今は本当に学校の先生みたいな気分なんです。みんなが卒業して、私の目の届かないところに行っちゃうんだなって。
(「spoon」2011年12月号)

「放課後」という特別な時間は高校時代までのものです。その後の人生に「放課後」と呼ばれる時間はもうありません。あの頃過ごしたあの時は二度と戻っては来ない。それゆえに放課後ティータイムは、いつまでも放課後です」という言葉は甘酸っぱく切ない響きを持ち得るのです。と、同時にこの言葉を宣言したがゆえに、アニメ『けいおん!』は主人公の高校卒業をもって終わるしかない。高校時代という青春の一瞬の煌めきを描き切ったこの作品は、「放課後」という特権的な時間を喪失するとともに封印されるべきだ・・・と、私はそう考えていました。 


しかし周知の通り、原作では大学編が始まりました。5人との再会の喜びを噛み締めるその一方でどこか言い知れぬ違和感のようなものがあったのは事実です。その違和感は実はまだ拭い切れていません。この先、原作がどのような展開を辿っていくのかは全く分かりませんが、少なくともこの大学編が京都アニメーション山田尚子監督の手でアニメ化されることはないと思っています。

――映画ED『Singing!』の印象は?


日笠陽子さん:
大森祥子さんの詞には「ロンドンに行って世界に旅立つぞ!」みたいなHTTの想いが込められていると感じました。そして映画のEDというより『けいおん!』の物語のEDという感じの、切ない雰囲気も入っています。今までと同じだけど、どこか違うEDになっていると思います。
(「アニメージュ」2011年12月号)

山田尚子監督という傑出した才能を世に知らしめたという意味においても、また日本のアニメ史上にその名を刻んだメガ・ヒット作品としても、或いは青春時代だけに特有の多幸感をパッケージングしてみせた傑作としても、『けいおん!』はこの先何年経っても色褪せることなくその価値が揺らぐようなことは決してないだろうと確信しています。


12/3の劇場公開日まであと2週間。シリーズの総決算として締め括りに相応しい出来栄えとなっていることへの期待と共に、これで本当にお別れなのだという寂寥感を抱いて劇場に臨むことになるでしょう。


「大好きをありがとう」


心の底からの賛辞を込めてこの言葉をスクリーンへ向けて贈ることが出来るその時を、今は心待ちにしています。


(2011/11/20 記)



【余談】
「FLIX」2011年12月号増刊(Vol.8)ではHTT5人の声優さんへの個別インタビューがあり、その中で「イギリスのイメージは?」という共通の質問がありました。その回答がなかなか興味深かったので抜粋します。なぜか日笠さんへの質問・回答は掲載されていませんので4人分です。

――今回HTTの5人が訪れるイギリスのイメージは?


豊崎愛生さん:
ロンドン・パンクですね。ブリティッシュ・ロックやビートルズも好きですし・・・私個人は澪ちゃんの音楽の趣味に似ていると思います。


佐藤聡美さん:
イギリスというだけで、おしゃれ~と思いますね。


寿美菜子さん:
ちゃんと読んだことはないけれどシャーロック・ホームズと『名探偵コナン/ベイカー街の亡霊』。


竹達彩奈さん:
建物はビッグ・ベンが有名ですよね。それにロンドンと言えばシャーロック・ホームズ(後略)。


(「FLIX」2011年12月号増刊(Vol.8))

イギリスと聞いて即座に英国Rockに言及した豊崎さんの音楽フリークぶりが際立っていて面白いですね。
豊崎さんは英米日を問わずRock Musicのヘヴィ・リスナーとして知られており、相当にマニアックな音楽も愛聴していらっしゃいます。フェイヴァリット・ミュージシャンとして公言されている有名なところでは、Dr.Feelgood、Tom WaitsThee Michelle Gun Elephantなど。


【参考URL】
HMV ONLINE 豊崎愛生インタビュー(2009/10/27)
「超ラジGirls」オンエア曲リスト


HTTの中では音楽初心者である唯役の中の人が、実は他の誰よりも熱心な音楽リスナーだったという逆説は、以前から面白く思っていました。HMVやTOWER RECORDではなくdiskunionへ行くのが好きと発言されていたのが今でも印象に残っています。
(了)

*1:この曲は2012年に開催されるロンドン・オリンピックの英国でのテレビCMに使用されることになったそうです。歌詞の意味を承知の上で起用するのだから驚きです。かつて日本の車のテレビCMに彼らの"I Fought the Law"が使われたのとは次元が違う。流石はモンティ・パイソンを生んだ国。

*2:関東での放映直後、この話題は瞬く間にネットを駆け巡り、Yahoo!のトップニュースでも報じられる騒ぎとなりました。関西での放映は1日遅れの翌日であることから、ネタばれ回避のためにTwitterも含めて極力ネットから遠ざかって情報遮断に努めていた私でしたが、まさかYahoo!でネタばれをくらうとは想定外でした。あの恨みは一生忘れないでしょう。

*3:当時はその名の通り、SMをモチーフとした衣装を販売していたそうです。

*4:彼女の経歴は、少し前の記事ですがこの記事が簡潔で分かりやすいと思います→http://www.news-digest.co.uk/news/content/view/2920/161/

*5:けいおん!』1期第1話で、澪が「ジ」のつくギタリストの名前としてジミー・ペイジジェフ・ベックの名前を上げるシーンがありますが、これにエリック・クラプトンを加えた、いわゆる”英国3大ギタリスト”を輩出したバンドが「ヤードバーズ」です。

*6:【参考URL】京アニ八田社長が語る“ヒットの理由”とは?『けいおん!』監督も登場した講演レポート(2010/10/22):http://p.tl/bbtN 同記事内に「私が音楽好きだという噂が社内であったみたいで、それでこのお話をいただいたのかなと」との山田監督の発言あり。

*7:この言葉はアニメ版にしか登場しないことにあらためて注意が必要です。