【小論】映画『エコール』の印象

けいおん!』の山田尚子監督が、以前、キネマ旬報(2011年12月上旬号)のインタビュー内で言及していたルシール・アザリロヴィック監督の映画『エコール』をようやく観ることが出来た。

エコール [DVD]

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深い森に囲まれ周囲から断絶された秘密の花園めいた寄宿舎での少女達の秘めやかな日々を淡々と綴ったこの映画に明確なストーリーはない。ここには若葉の芽吹くような息詰まるほど濃密な少女達の匂いが立ち込めている。いや、このむせ返るような"匂い"をパッケージングすることこそが監督の狙いだったのではないか。


むしろ風景が、光が、影が、雄弁に世界を物語る。


少女達の肢体へ向けられたフェティッシュな視線。俯瞰と望遠を多用した擬似ドキュメンタリー的なカメラワーク。恐らくは山田監督をインスパイアしたであろう映像言語の数々がそこここに見られる。


間違っても万人受けするような映画ではない。少女への偏愛に満ちた描写はどこか異様であり、凄惨でグロテスクでもある。何よりここには陰鬱な「死」の影が絶えず付き纏っている。


少女を描いているのにおよそ透明感というものがない。やがて第二次性徴期を迎える少女達の生々しい息遣いをフィルムの中に封じ込めようとする手つきに、どこか偏執狂的で仄暗いパトスを感じるからだろうか。


けいおん!』シリーズを読み解く参照点のひとつとして興味のある方は一度ご覧になってみると良いと思う。ただし『けいおん!』とは似ても似つかない作品なので、あらかじめそのつもりで。


なおキネ旬山田尚子監督が言及していたもうひとつの参照点は「小津安二郎」だった。
けいおん!』独特のローポジションのカメラアングルと小津作品との共通点は、同誌のインタビュー内でも山田監督自身の言葉で語られているし、脚本の吉田玲子さんも『けいおん!』のストーリーに触れる際に幾度か小津の名前に言及している。これらについての考察はいずれまとめてみたい。


最後に、ルシール・アザリロヴィック監督が何者なのか気になって調べている内、あの問題作『アレックス』の監督であるギャスパー・ノエ監督の奥方ということが分かってびっくりしたというか、納得したというか・・・。


強烈な個性を持った映画監督同士のカップル。このお二人の共作というのも観てみたい。


(2012/04/17 記)