【音楽】30年目のお蔵出し:「ラジオパラノイア」聴取雑感(第1回)

USTREAMの配信で「ラジオパラノイア*1を放送するという話題を目にした。これは期間限定復活中の「スネークマンショー」が、1980~1981年にかけて計2回だけ放送した3時間に及ぶラジオ放送(AM波)のスペシャル番組で、今回は当時の音源を(番組内のCMもそのままで)完全放送するとのこと。


実は私はこの特別番組をエアチェック*2したカセットテープを今も持っている。ただし、曲間のスネークマンショーのギャグネタだけを抜粋した特別編集版で、当時『スネークマン・ショー』『死ぬのは恐い、嫌だ。戦争反対!』『海賊盤』にずっぽりハマっていた私が、友人の友人からダビングして回ってきたものを入手して密かに楽しんでいたものだ。今回の配信は6/10(金)に第1回目の放送分を、続く6/19(日)に第2回放送分が配信される。
スネークマンショー (急いで口で吸え!) 死ぬのは嫌だ、恐い。戦争反対! (プラケース仕様) スネークマンショー 海賊盤


以下、第1回放送分の聴取後の感想。


スネークマンショーのコントのネタは全て覚えていた。我ながら驚いた。若い頃の記憶というのは、こんなにも鮮明に残っているものなのか。
一方でプレイされる曲は、当然、今回初めて耳にする。ああ、ここでこんな曲を掛けていたのかとか、ロックだけじゃなく古いソウルやオールディーズに至るまで選曲の範囲が多岐に及んでいることに感嘆したり*3


最後まで聴き通して感銘を受けたのは、やはり音楽だ。ロック、ニューウェイヴ、レゲエ、ダブ、ソウル、ジャズのみならず映画音楽まで。70年代から80年代へとひとつのdecadeが切り変わる瞬間、何か漠然と”時代が変わる”と心躍らせたその頃に続々と勃興しつつあった新しい音楽の息吹がこの番組の隅々にまで感じられて、今の音楽が完全に失ってしまった瑞々しいエナジーを存分に体感することが出来た。久し振りに音楽を聴いて興奮した。30年前の音楽がこんなにも新鮮に聴こえるなんて。

Bow Wow Wow - W.O.R.K. (N.O. Nah No No My Daddy Don't) [Extended]


今の音楽はちっとも面白くないと、ここ10年ほどずっとそう思ってきた。これは加齢に伴う自分の感性の鈍磨なのではないかと、いささか自信を失いつつあった矢先だっただけに、この感動はちょっと嬉しかった。自分の若い頃の音楽だからナツメロ感覚で盛り上がってるだけだろうと自分で自分を揶揄したくもなったが、恐らくそれは違う。ポピュラー音楽が面白くなくなってしまったのは、主に音楽を巡る状況の方に要因があり、携帯電話とインターネットが急速に普及した90年代半ばからの時代潮流と無関係ではないと思っている。端的に言ってしまえば、音楽が娯楽の中心であり若者の共通言語であった時代ではなくなってしまったということだ。趣味や娯楽がタコ壺的に細分化を極めた今の時代にあって、世界を突き動かすだけの音楽はもう生まれては来ない。悲しいことだが、それは間違いないと思う。

Brian Eno & David Byrne - The Jezebel Spirit


それでも、耳を澄ませば今も良質で心湧き立つような音楽はある。問題はその需要と供給の関係がアンバランスであり、真にラディカルで創造的な音楽が私達の耳に届くまでの道筋が寸断されてしまっていることにある。供給側が自らの感性だけを頼りに、商売ではなく自らの信念でチョイスした音楽を聴衆に届けることの出来る場所…。今やクラブのような閉鎖的な空間内に留まってしまっているDJのアティチュードが、かつてはもっと自由な場所で鳴り響いていたのだ。それを発信できるだけの懐の深さがマス・メディアにあったのだ。
この「ラジオパラノイア」のように*4

Burundi Black - Maxi Single Vinyl


(2011/06/10記)
(第2回に続く)

*1:USTREAMの番組紹介にはこうある。「ラジオパラノイアYMOとの武道館共演により、TBSでの番組終了を余儀なくされたスネークマンショーのメンバー3人によって、1980~1981年にかけて特別番組として2回だけ制作された幻のラジオ番組「ラジオパラノイア」。ラジオスネークマンショーCD、アンソロジーにすら未収録の、しかもステレオ録音されたギャグ満載です。偶然発見されたスポンサー用同録テープからマスターし、CM込み当時の音源そのままで、30年の時を経てお届けします。モノラル番組で味わえない曲×ギャグセンスと80年代初頭の空気をご堪能ください。」

*2:今や死語かもしれないが、ラジオ番組を聴取してテープに録音するなどの行為を当時はこう呼んだのだ。

*3:2枚の正規アルバムでNewWaveの印象が強かっただけに、殊更そう思った。

*4:スネークマンショー」「ラジオパラノイア」の仕掛人である桑原茂一氏の職業は「選曲家」である。