【舞台探訪】『Angel Beats!』:第6話 ~映画『八つ墓村』のロケ地探訪とあわせて

2010年4月から6月まで放映されたTVアニメAngel Beats!(以下AB!)第6話に登場した直井文人の実家を取材して来ましたのでご紹介致します。

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当記事に掲載した『Angel Beats!』の画像は、著作権法32条に定める比較研究を目的としての引用であり、当該画像の著作権は全て、©VisualArt's/Key/Angel Beats! Projectに帰属します。

■探訪写真
MAP


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第6話
No.01 (岡山県高梁市)広兼邸(※以下、すべて2011/07/23撮影)

以上です(すみません。本当にこれだけです)。


このカットは岡山県高梁市にある「広兼邸」の外観がモデルです。
広兼邸は江戸時代後期に紅殻(ベンガラ)の原料製造で巨大な財を成したこの地方の庄屋の屋敷で、小高い山肌に張り付くように聳え立つ石垣は雄大にして優美、さながら城郭のような威容を誇っています。

広兼邸の全容(※この写真は拡大してご覧になれます)


このたび出張で週末に岡山へ行く用事が出来たので、仕事後も引き続き居残って翌日の土曜日(2011/07/23)にレンタカーで岡山の山奥をぐるりと回って取材をしてきました。広兼邸は、個人的には映画八つ墓村野村芳太郎監督:1977年、市川崑監督:1996年)に登場した田治見家*1のロケ地としての印象が強く、実は前に『八つ墓村』の舞台(=映画ロケ地)巡りをしたことのある私にとっては5年ぶりの再訪でした。

写真の通り、広兼邸は私人の屋敷としては破格の規模を持った大邸宅ですが、『AB!』で描かれているのは外から楼門へ至るまでの坂道と建屋のみです。これは広兼邸の一部でしかありません。

第06話で描かれているのは赤線の範囲内


広兼邸は城のように巨大な屋敷です。現地で実地検証すると『AB!』で描かれたカットは実際の風景の規模感をやや縮小して描かれていることが分かります。それが顕著に表れているのは画面中央右寄りにある駐車場で、現実にはこの位置に駐車場は存在しません。

写真右下の舗装道路の背後にある生け垣周辺を抉り取るようにして、そこに駐車場が描かれています。併せて楼門の位置がやや下方気味に描かれています。この改変により、現実の広兼邸が持つダイナミックなスケール感は幾分縮小され、ワイドなパースペクティヴは失われて、全体にこじんまりとした印象を生んでいます。

建屋の造りは広兼邸をモデルに出来ても、広兼邸のスケール感をそのまま再現すると立派になり過ぎてしまいます。しかし入口付近に駐車場を描き加えることで、常識的サイズの邸宅として不自然なく見えるようになっています。要はそれくらい、実物の広兼邸は個人の住宅規模から考えると非常識にでかいのです。


参考までに前述した映画『八つ墓村』のカットと比較してみましょう。
1977年公開のこの映画(野村芳太郎監督)が記録しているのは、今から約35年前の風景です。現在と殆ど変わりないことがお分かり頂けると思います。

当記事に掲載した『八つ墓村』(1977年)の画像は、著作権法32条に定める比較研究を目的としての引用であり、当該画像の著作権は全て、松竹株式会社に帰属します。




変化があるとすれば植物でしょうか。上段の映画カットの画面左側にはまだ丸い植え込みはありません。この植え込みは『AB!』のカットにはしっかり描かれています。
また下段の写真には庭にすっくと松の木が立っているのが見えますが、35年前の映画ではまだ細い若木であったことなどが見てとれます。


繰り返しになりますが広兼邸のスケールはまさに「城」というべきもので、稠密に組み上げられた石垣は武者返しの意匠を備えた本格的なものです。車がなければ訪問できないような奥深い山中にあり、公共交通機関でアクセスするには【JR伯備線備中高梁駅から備北バス「吹屋行」に乗って約60分、終点下車。そこから徒歩30分】かかるような場所ですが、もし機会があれば是非一度訪問されることをお勧め致します。このような辺鄙な場所にこれほどの規模の「城」を築き上げた、往時の素封家の財力の凄みをひしひしと感じることが出来るでしょう。


近くには「吹屋ふるさと村」があり、紅殻仕立ての赤褐色の土壁や格子に彩られた美しい町並を見ることが出来ます。広兼邸からは車で5分ほどの距離です*2


吹屋の町並み


なお今回の取材(2011/07/23)は『AB!』探訪が目的ではありませんでした。本来の目的は、個人的に長く懸案となっている横溝正史作品の舞台探訪/聖地巡礼でした。『AB!』の広兼邸カット回収はその副産物です。本来の取材内容については近い内に別記事にまとめたいと思っていますが、いつになることか。


最後に『AB!』について一言補足します。同作品の舞台背景は主として金沢大学構内、最終話では渋谷等が登場していますが、正直言って舞台探訪は・・・食指が動きません。背景の一致度が高くない、合成が多いという数多くの報告を目にしているからということもありますが、それ以上に作品への関心を持てないでいるからです。設定やキャラクターの素材はかなり面白いと思うのですが・・・(お好きな人にはごめんなさい。ゲーム版がリリースされたら印象が変わるかもしれません)*3


そういう意味では、自分の舞台探訪のスタンスとして本来取り上げる作品ではないのですが、現地取材できる貴重な機会を得たことから、横溝物の探訪を兼ねて踏み切った次第です。当ブログでの『AB!』の舞台探訪記事はこれで打ち止めとしますが、その点はあらかじめご容赦下さい。


(2011/07/26 記)

【舞台探訪・聖地巡礼の心得】
舞台として描かれる場所は一般市民の生活空間であることが多いため、現地訪問に当たっては、以下の各項目にくれぐれもご留意下さい。マナーと心配りをお忘れなく!

1.近隣住民の方々の迷惑となるような行動は慎むこと。
2.プライバシーの侵害となるような行為はしないこと。
3.学校や個人宅に無断で侵入しないこと。
4.撮影時の道路への飛び出しなど危険な行為はしないこと。
5.撮影が許可されていない場所の撮影はしないこと。迷った場合は関係者に撮影可否の判断を求めること。

*1:1977年の野村芳太郎監督版では、なぜか「多」治見の字を当てている。

*2:ちなみに広兼邸~吹屋界隈はSoftbankの電波は完全に圏外で、しばし情報断絶の難民状態を味わいました(2011年時点)。

*3:ただし、作品タイトルは今でも秀逸だと思っています。『Angel Beats!』は「天使を(が)打ち負かす」「天使の(心臓の)鼓動」のダブル・ミーニングです。大胆にも作品タイトルが初めから物語の展開を示唆(もしくはネタバレ)していた訳ですね。