【レポート】京都アニメーション・スタッフによる座談会:2011/11/03(その1)

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【プロローグ】
16:30になって京都文化博物館の主催者の方*1の開会の挨拶がありました。
実はこれも興味深いお話だったので抄録致します。


・京都でメディア芸術祭をやる上で、京アニは絶対にはずせなかった。
・実は8年前、京都文化博物館で60日間のイベントを開催した時、京アニから毎日スタッフを派遣して下さって、しかもその期間はこちらに出張スタジオまで設けていた。
・その頃の京アニは、TVアニメの『犬夜叉』『ジャングルはいつもハレのちグゥ』の制作協力を手掛けていた頃で、『ムント』はまだ制作中だった。当時はまさかここまで立派になられるとは想像もしていなかった。
・スタジオを見学させて頂いた時に印象に残ったのは、iMacで1枚1枚撮影されていたことで、技術的にはもっと進化した機材があったはずなのに、「iMacでもここまで出来るんですよ!」と若い人が目をキラキラさせて説明してくれたこと。これはいずれ凄い作品を作り出す会社になるのではないかと思った。


ここで本日の司会進行役として京アニのセナミさんという若い女性が紹介されました。後で分かったのですが、『けいおん!』『けいおん!!』のEDでは設定マネージャー、『日常』のEDではアシスタントプロデューサーとしてクレジットされている「瀬波里梨」さんでした。


瀬波さんのアナウンスで、今日の主役お三方の登壇です。
ステージに向かって右から武本さん、木上さん、石立さん、司会進行の瀬波さんの順に座ります。

座談会中の写真撮影は控えました。


今さらの感はありますが、ここで御三方のプロフィールを紹介しておきましょう。


武本康弘 「涼宮ハルヒの消失」監督
木上益治 「天上人とアクト人最後の戦い」監督
石立太一 「けいおん!「日常」演出


入場券の申し込みをする際、質問したいことを1つ書いてほしいという指示がありました。今回のトーク・セッションは専らその質問に答えるといった形式で進められました*2。以下の発言は、録音物からの書き起こしではなく、現地で書き採ったメモを元に再構成したものなので、実際の言い回しとは異なるものがあります。また全体の流れを分かりやすくするために、何度か繰り返された同一趣旨の発言は一ヶ所に集約しているものもあります。いずれも発言のニュアンスを損なわないように配慮したつもりですが、その点はあらかじめご留意下さい。


なお既にTogetterやブログ等で何名かの方がレポートをアップされています。
代表的なものを以下に上げておきますので、見比べて頂いて私の記述内容に不十分な部分があれば、そちらで補完して頂ければよろしいかと思います。
「京都アニメーション・スタッフ座談会−アニメーション制作の現場から−」行ってきた。


では始まりです!


京アニ・スタッフによる座談会(16:40~17:45)】


司会:
ご自身のプロフィールを自己紹介して下さい。

武本:
自分で言うのは恥ずかしい・・・。『フルメタ』とか『らき☆すた』とか、あと『ハルヒ』・・・*3。入社して20年目になります。


木上:
作画全般を手掛けています。今年で21年目です*4。『ムント』シリーズの監督を担当しました。


石立:
演出全般です。社歴は武本さんの半分くらいで今年で10年目くらいです。


司会:
アニメーターになろうと思ったきっかけは何ですか?


武本:
僕の動機は汚れています(笑)。木上さんのようにピュアじゃないから(笑)。サラリーマンが嫌で絵で食っていきたかった。知人の話を聞くと、漫画家もイラストレーターも生存競争が激し過ぎて絶対無理だと思いました。或る日アニメを見ていると、EDのスタッフロールで沢山の人の名前が並んでいて、この中に紛れ込んだら何とかやっていけるんじゃないかと思ったんです。でも沢山人がいるということは、沢山上手い人がいるということを入社してから思い知らされました。


木上:
子供の頃、ディズニーや手塚アニメを見て感動したことがきっかけです。自分が就職先を探していた当時は大阪にスタジオなどない時代で、ツテを頼って東京に出てきて何とかスタジオ入りできました。


石立:
僕の動機も汚れています(笑)。絵を描くこともそうですが、元々映像作品全般が好きだったので、TV番組の制作会社の面接を受けたのですが、そこで「とにかく体力が必要」と聞かされて断念しました。京アニを選んだのは家から近かったから(笑)。でも入ってからそんな甘いもんじゃないと気づきました。特に木上さんの仕事ぶりを隣で見ていて「すみません」と思いました(笑)。それからは一心不乱に仕事に取り組むようになりました。


武本:
絵描きとして入社した人は、木上さんの仕事に向かう姿勢を見て一度はガンッとやられますね。


司会:
作品を作る時、一番大切にしていることは何ですか?


武本:
その作品がどうしてほしいか?作品の中から聞こえてくる「こうしてほしい」という声に従うようにしています。それが作品を形にしていくということだと思う。自分らしい作品にしてやろうとスケベ心を持つと、その作品に沿わないことになります。


司会:
武本さんが監督された映画『涼宮ハルヒの消失』について。特に気に入っているシーンは?


武本:
今日のプログラムを見たんですが、これ苦行だなぁと。長くてすみません(笑)*5。見て下さった方、ご苦労さまでした。「消失」で気に入っているのは、谷口の一言をきっかけにキョンが光陽園学院まで走って行くシーンです。あそこは自分で観ていてもゾクゾクする。演出的に好きな場面は・・・もう全部としか言いようがない。


司会:
長い上映時間ですが、観る人を飽きさせない工夫はありましたか?


武本:
ノープラン(笑)。これはやりたい!と思ったものを全部入れたらあの長さになりました。これ以上は詰めようがないというものになっていると思います。一部カットしてもこの結果になった。


司会:
今回、お客様からはロケハンに関する質問がとても多かったのですが、ロケに行かれた時のエピソードをお話し頂けますか?


石立:
武本さんが迷子になった話、ドブに落ちた話(笑)。


武本:
違う!迷子にはなっていない(笑)。『フルメタル・パニック! The Second Raid』のロケで香港に行った時、ふと目の前にあった大学の建物の屋上に行けばすごくいい絵が撮れるぞ!と思ってそのまま数人で入ってしまいまして*6。後でスタッフに大目玉を食らいました。


司会:
ロケハンの場所はどうやって決めるのですか?


武本:
原作物の場合は原作者に確認します。モデルになった場所はあるか?あるならそれはどこか?その上でロケハンに行きます。原作者の考えに沿ったものにしています。


司会:
では『ムント』のロケハンは?


木上:
『ムント』のロケ地は、会社の近くだから。歩いて行けるから(爆笑)。勿論、登場人物の世界観に合っているものにしています*7


司会:
『ムント』についてもう少し詳しくお願いします。


木上:
デジタル制作の環境が社内で整いつつあった時期にオリジナルを作ってみよう!という気概の下に始まった企画でした。


司会:
その時、プレッシャーはありましたか?


木上:
プレッシャーはなかったですね。良いスタッフに支えられて一緒に作り上げました。


武本:
いや、作画スタッフのプレッシャーは凄かったですよ(笑)。


石立:
自分は入社して1年目の頃で、原画として初めて関わった仕事だったので強く印象に残っています。


武本:
中途半端なことをやって木上さんに渡すとリテイクが来ないんです。普通はああしろこうしろと指示付きで返ってくるのに全く音沙汰がない。どうしてかと言うと、木上さんが自分で全部直してしまうから!自分の仕事がどこにも残らないというのは虚しいものですよ(笑)。


司会:
作品作りで大切にされたことは何ですか?


木上:
京アニスタッフは皆、キャラへの想いが凄い。愛を持って作画しています。その気持ちは大切にしたいですね。


司会:
今後、このようなオリジナル作品は作られるのでしょうか?


木上:
京都を舞台にした作品は今進めているところです*8。それと「京アニ大賞」を受賞した作品のアニメ化もあります*9


武本:
京アニ大賞」の選考には自分も関わらせてもらっていますが、ジャンルにこだわりはありません。面白ければ何でも良い。*10


(【座談会:その2】に続きます)
→座談会:その2

*1:後に森脇清隆さんだと分かりました。

*2:ちなみに私が書いた質問は「ロケハンの際の苦労話や印象的なエピソードがあればお話し下さい」というものでした。

*3:本当に恥ずかしそうでした。

*4:京アニではという意味。木上さんは京アニへの転職組で、アニメーターとしての職歴はもっと長い

*5:映画『涼宮ハルヒの消失』の上映時間は2時間43分

*6:無許可だったようです。

*7:『ムント』の舞台背景には、京阪丹波橋駅伏見桃山駅の界隈が登場します。原作物ではないオリジナル物の場合のロケ地はどうやって選んでいるか?という趣旨の質問に対する回答がこれでした。

*8:ここでは司会者の瀬波さんも若干言葉を濁していたので、詳細についてはまだシークレット扱いなのだろうと思われます。進めているのが企画なのか制作なのかもトークの内容からは汲み取れませんでした。【補足】後になって2013年1月から放映された『たまこまーけっと』であることが判明しました。

*9:【補足】こちらは後にアニメ化された『中二病でも恋がしたい!』のことです。

*10:京都アニメーション大賞」は、シナリオ・漫画・小説などジャンルを問わない。