【舞台探訪】『氷菓』:■10 その他 Part1(一本杉白山神社、市民プール、旧神岡鉱山etc.)

京都アニメーションのTVアニメ『氷菓』(2012年4~9月放映)の舞台探訪記事、10本目。
■01~■09のような独立したエリアとして記事を書くほどのカット数はないものの、重要性を鑑みれば絶対にはずせない場所を2回に分けてご紹介致します。今回はその内、
 a.一本杉白山神社       
   →折木邸の場所モデル(="軍神"広瀬武夫中佐の住居跡)
 b.高山市民プール       
   →第11.5話:奉太郎のバイト先のプール
 c.国分寺通り南「寿々や前」 
   →第15話:夜道を歩く里志
 d.旧神岡鉱山T地区      
   →第8話:自主映画に登場した廃墟周辺

を取り上げます。

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ただし、一点だけあらかじめお断りしておきます。
d.の「旧神岡鉱山T地区」の取材については、諸々の情報を集約して場所の特定までは完了していましたが、飛騨市神岡振興事務所で現地の詳細状況をお伺いし、地区の入口付近まで辿り着いた時点でそこから先への立ち入りを断念しました(詳細は後で述べます)。従いまして、この物件については舞台探訪記事ではなく、現地立ち入り直前までのレポートという位置づけになります。ご了承下さい。


■10 その他 Part1
a.一本杉白山神社
第2話


ここに建物はありません。更地です。




キャプにも描かれているシール状のものは・・・

このようなものでした。



折木邸は実在しませんが、右奥の民家はしっかり描かれています。


余談ですが、実はこの場所は、司馬遼太郎の小説坂の上の雲』にも登場する"軍神"広瀬武夫中佐の住居跡でもあるのです。写真は未撮影ですが石碑が立っています(上の写真の白い車の前にあります)。こちらの記事でその石碑の文字を見ることが出来ます。


第8話



第11話
県道480号線から一本杉白山神社へ曲がる角の辺りです。






b.高山市民プール
第11.5話
先日発売されたばかりのコミック版『氷菓』第3巻の初回特典に同話のBlu-rayディスクがついていました。キャプはこちらから新たに採り直したものです(といってもモニターを撮影したものですが)。



取材は10月だったので既に営業期間ではなく、このように外側からの撮影を余儀なくされました。当然、アングル通りに撮れるものは少なく、必ずしも完全一致ではありません(全然違う場所から撮っているものもあります)。しかし考えてみれば、営業期間中であればカメラを向けることがかなり難しくなる訳で、アングル合わせにこだわらないのであれば、これはこれで良いのかもしれません。








c.国分寺通り南「寿々や前」
第15話



キャプの明度を少し上げてみました。こちらの方が比較しやすいと思います。



こちらも少し明るめで。左側の鉄柱の歪みもほぼそのまま再現されています。


国分寺通りには、その名の由来となった「飛騨国分寺」があります。2012年11月24日の高山取材の際、境内を通りぬけて大通りに出ようとした時に目の前の大イチョウの色づきを見て息を呑みました。紅葉越しに陽の光を浴びていると全身が黄色に染まりそうです。


このイチョウの葉が一夜にして全て散ってしまったら、その年の高山は大雪に見舞われるという言い伝えがあると、現地の方にお聞きしました。
翌日の朝、飛騨国分寺へ立ち寄ると・・・

ほとんどの葉が落ちて、

地面は一面イチョウの葉の絨毯になっていました。この冬の高山の雪は例年より多いのでしょうか。


d.旧神岡鉱山T地区(自主映画に登場した廃墟)
第8話

さて冒頭でお伝えした問題の物件です。


第8話の自主映画内に登場する廃墟群の場所は、原作『愚者のエンドロール』読了の時点でおよそ見当は付いていました。作中で「楢窪」地区と命名されたその場所は、原作の記述を辿れば旧神岡鉱山の周辺であることは自明であり、更に「楢窪」という地名がかつて鉱山周辺にあったT(便宜上、イニシャルで表記します。ここまで書けば地名を表記しているのと同じですが・・・)と呼ばれる地区の名前のもじりであることも一目瞭然でした。


しかしこの鉱山は、かつて大規模な公害病を引き起こしたカドミウム汚染の元凶となった場所です。産業遺跡と呼ぶには余りにも重い歴史を背負った土地であり、第三者がおいそれと踏み込むべき場所ではありません。


実は、事前調査の時点でd.のキャプと全く同じアングルの写真を掲載しているサイトを発見していました。しかしこの手の情報を掲載する、いわゆる「廃墟系」サイトの殆どは不法侵入を働いたものであり、T地区の取材記事についても調べられる限り調べてみましたが、どれもこれもイリーガルとしか思えないようなものばかりで、当サイトでリンク先を紹介するのは控えるべきと判断しました*1


それならもう自分が直接行って状況を確認するしかありません。このキャプのモデルとなった場所が立ち入り可能のエリアであれば撮影を敢行、侵入不可のエリアであれば潔く引き返す。そのように取材方針を固めて平湯温泉で宿泊した翌日、神岡に向かいました。2012年10月9日のことです。


初めに訪問したのは飛騨市神岡振興事務所でした(※本物件のMAP上のポイントは同事務所の場所とさせて頂いています)。

ここでT地区が現在は神岡鉱業株式会社の管理下に置かれていて、同社の許可がなければ立ち入り不可であること。従って、T地区内の廃墟の記事を掲載しているブログやホームページは、どれも無断で侵入したものであろうこと。立ち入りの可否については、境目となる場所に神岡鉱業が看板を設置しているので、そこから先へは絶対に踏み込まないでほしいこと・・・などのお話を伺ってから、とりあえず行けるところまで行ってみようと車を発進させました。

神岡振興事務所内に掲示されていた航空写真です。T地区の跡地も写っています。

道中の風景です。かつての湖の一部は干上がり、鉱山から流出した成分が沈殿したものなのでしょうか、白骨のように不気味な色を浮かべていました。


地区へ至る分かれ道まで曲がりくねった山道を走ること約20分。両脇にぽつぽつとかつての住居跡とおぼしき廃墟が目に付き始めます。

分岐路まで来ました。ここを左に曲がって更に10分ほど車を走らせます。幅の狭い山道の舗装路は状態が悪く、明らかにもう何年も人の手が入っていないことが窺えます。

地区の入口手前のT字路まで辿り着き、ハンドルを左へ切った途端、赤色の鮮やかな看板が目につきました。「部外者立入禁止」「無許可立入を禁ずる」「写真撮影を禁ずる」・・・。

もう少し奥にも同様の「立入禁止」の看板がありました。先の看板より古いものです。私が廃墟系サイトで事前に確認していたのはこちらの看板でした。写真で見た時はチェーンが渡されていたのですが、今はそれがありません。


手前の新しい方の看板には、はっきりと「写真撮影を禁ずる」と描かれています。恐らく管理会社が廃墟系サイトの不法侵入を見るに見かねて新たに立てたものなのでしょう。神岡振興事務所の職員の方に伺った話では、地区の内部は当時の採掘施設がそのまま残されていて、老朽化した踏み板など足場の悪いところも多く、迂闊に踏み込めば大怪我の元になるとのことでした。実際、負傷した者がいたのかもしれません。
決して興味本位で踏み込んではならない場所。鉱山の歴史的経緯も含めて、物見遊山で部外者が入ってはならない土地。ここは"結界"なのだと思いました。

かつてはこの山道の向こうに大きな街がありました。鉱山で働く人々の暮らす住居やアパートが立ち並び、学校や病院や保育園や浴場や公会堂まであって、鉱山の全盛期には活況を呈していたと聞きます。今はひっそりと来る者を拒み、朽ち果てていく時を静かに積み重ねているかのようでした。


そして私は"結界"の向こう側に踏み込むことを諦め、そのまま元の山道を下って帰路につきました。


MAP
一本杉白山神社国分寺通り南「寿々や前」

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高山市民プール

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飛騨市神岡振興事務所

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地図は縮小表示していますので、必要に応じて上記の”より大きな地図で~”の後のリンク先をクリックして拡大して下さい。ブラウザがIEなら、アンカー上でマウスを右クリックして<新しいウィンドウで開く>を選択頂ければ、別ウィンドウが開くので便利かと思います。

次回はいよいよラスト、■11 その他 Part2(スカイパーク、雑貨フラマン、飛騨総社etc.)です。
前回の記事はこちらです。→■09 飛騨一宮水無神社


(2013/2/3 記)

当記事に掲載した『氷菓』の画像は、著作権法32条に定める比較研究を目的としての引用であり、当該画像の著作権は全て、米澤穂信角川書店/神山高校古典部OB会に帰属します。

*1:本件に限っては、京都アニメーションのスタッフも実際に現地で取材したのではなく、私が見たサイトの同じ写真を参考資料に使った可能性はあります。