【レポート】「第15回アニメーション神戸」授賞式(2010/11/28開催)のまとめ

以下の文章は、2010年11月28日に神戸国際会議場メインホールにて開催された「第15回アニメーション神戸」授賞式のレポートを、Twitterで流した時の文章を集めて再編集したものです。


これは私が当時はまだブログを立ち上げていなかったため、外部へ向けて情報発信する術がTwitter以外にないという状況下での苦肉の策でした。あらかじめ用意した文章を140文字以内に区切り、tweetする日を12月1日に定めて連続的に投下した後は日が変わるまで一切他のtweetをしないという方法です。こうしておけば、Twilogの2010/12/1分のtweetを抽出し、旧→新の順に並べ変えるだけでレポートのいっちょ出来上がりという訳です。


その後、こうしてブログを立ち上げたので、折角なのでこちらにまとめ直しておくことにしました。ちなみにTwilog版はこちらで見ていただけます。


つい先日、来る12月2日に開催される「第17回アニメーション神戸」において『映画 けいおん!』が作品賞・劇場部門を受賞したとの吉報が入ってきました。この機会に2年前のあの日のことをあらためて整理しておくのも悪くないでしょう。
では、以下本文です。


「第15回アニメーション神戸」受賞式(2010/11/28開催)
当日の進行で印象に残った場面をトピックとして記録しておきます。アニメファンにとっては聞き逃せない非常に興味深い話が幾つもありました。


●第1部
第1部のデジタル・クリエイターズ・アワードは、自主制作によるデジタル作品の受賞作発表ですが、アマチュアとは思えないほどのクオリティの高さが際立っていました。大地丙太郎監督の講評によると、今年の傾向は癒し要素の強い「ほっこり系」とのことでした。


アワード後は、実行委員長で声優の神谷明氏と大地監督との四方山話。
以前、台湾でイベントがあった時に他のスタッフそっちのけで2人で話が盛り上がってしまい、それがあまりにも面白かったので今回是非トークショウをやろうという話になったそうです。


神谷:
大地監督のプロフィールは興味深いですね。


大地:
職業志望が、漫画家→時代劇役者→写真家と転々と興味が移って、最後にアニメ業界に入りました。漫画家は何といっても赤塚不二夫さんが強烈だった。あの人は天才。「シェー」の一言で日本中を席巻したんですよ。来日したビートルズまでやった。今の時代にあんなものはない。時代劇はとりわけ近衛十四郎(=松方弘樹の実父)が大好きでした。あの殺陣は日本一上手い。でも斬られ役が多かったので、それを見て「あんな回りのヘッポコな役者に斬られる訳がない」と子供心に思っていました。


この辺りの話、会場の若いアニメファンは、ぽかーん( ゜д゜)だったでしょうが仕方ないですね。


大地:
日本初のカラーアニメ『ジャングル大帝』の制作に色のスタッフとして関わったのが最初の仕事です。当時は白黒TVが一般的だったので、カラーで作成はするが白黒で見ても綺麗な発色に仕上げる工夫が必要でした。


どういう声優が良いかという話。


大地:
単に台本通りにしか喋ってくれない人もいます。でも、それはちょっと困るんですよ。「どうしよう・・・」という台詞1つ取っても、そのパクの長さの中でどれだけの情感を込められるか、どれほどそこにプラスαの要素を注ぎ込められるかが、声優の巧拙の境目だと思います。極めて短いパクの中で無理じゃないかと思うほど早口で喋る台詞があって、その難しい注文を恐る恐る三石琴乃さんに依頼したところ、こちらが想像していたものを遥かに上回る出来となって返ってきて驚愕しました。


ここで神谷さんが「三石さん!!いや、あの人は、もう、うまーーーい!」と大絶賛。大地監督と共にうんうん!と深く頷く。


大地:
その時のお礼が言いたくて関係者にメアドを教えてもらって御本人に送ったところ、すぐに「監督からじきじきにメールが来てびっくりしたじゃないかヨ!」と三石さんから返信が来まして(笑)。


神谷:
あの人はそういう感じの人ですね(笑)。


大地:
その時、声優はあまり褒められることがないんだな、ということに気付かされました。


神谷:
いい演技をしたら褒めるべきなんです。回りをどんどん煽ることでスタジオ内の空気がすごく盛り上がる。以前、音入れの時に大塚明夫さんと2人でスタジオ内で盛り上がっていたら、監督が若手声優に向かって「あなた達は普通にやって下さい」と忠告しているのを聞いてしまったことがありましたが(笑)。


大地:
俳優の竹内力さんがスタジオで吠えていると、余りの迫力にみんなビビってしまってスタジオの外に出てきたなんてことも。


神谷:
歌手の玉置浩二さんと仕事をした時、すごくいい表現をされたので、みんなで絶賛したところ「いえ、仕事ですから。」とあっさり返ってきて、さすがはプロだなと思いました。


大地:
赤ん坊の声をやらせたら、こおろぎさとみさんの右に出るものはいないですよね。あまりにリアルな赤ちゃんの声なので本当に驚きました。


神谷:
こおろぎさとみは、おかしい!(笑)


大地:
あの人、中身は赤ん坊でしょう(笑)


神谷:
我々の仕事は「期待される以上のものを返してなんぼ」の世界だと思います。


大地:
今はデジタル技術で何とでもなるんです。タイミングなんかより情感を込めることの方がずっと大事です。


御二人のトークは絶好調の大盛り上がりで、まだまだ聞きたかったのですが制限時間となったのでこれにて終了。また来年もやりましょう!という言葉に場内は拍手喝采。別のイベントで拡大版のトークライブをやってほしいと本気で思いました。


●第2部
15:30から第2部の授賞式の開催です。ステージ背後のカーテンが左右に開かれ、グリーンのバックライトが会場を照らし、一気に空間が広くなった印象。初めに矢田神戸市長による挨拶です。


矢田市長: 
アニメーション神戸」は震災の翌年から始まって今年で15年目を迎えます。アニメは今や日本のトップカルチャー。世界最先端の文化として維持したい。震災の被害が甚大であった長田区に、この度、神戸初のアニメ制作スタジオ「アニタス神戸」が出来ました。アニメを通じて発信する日本の姿、日本の力。大学機関と連携しながら世界レベルの人材を育てたいと思っています。


行政がどこまでバックアップできるかが今後の発展の鍵でしょう。市長の言葉は感動的でした。
次はいよいよ各部門賞の発表です。


【個人賞】:細田守監督
細田守監督の登壇です。


角川書店メディア局次長 矢野氏のコメント: 
新人賞の意味合いの強い賞を今頃差し上げてすみません。デジモンや劇場版ワンピース公開の頃に差し上げていれば、アニメーション神戸賞は先見の明のある賞だと評価されていただろうに(笑)。


細田監督 
矢野さんからプレッシャーのかかる言葉を頂きました。個人賞といいますがアニメは個人で出来るものではありません。300人を越えるスタッフを抱え、誰1人が欠けても完成しない。監督と言っても別に偉い訳ではなく、監督という機能を持った1スタッフでしかありません。『サマーウォーズ』という映画自体、1人1人気持を合わせて一致団結する映画です。それはアニメの現場と同じ。スタッフ1人1人と受賞を喜びたいと思います。


【作品賞・劇場部門】:『涼宮ハルヒの消失
武本康弘監督の登壇。


アニメディア編集長 高尾氏のコメント: 
SF的趣向と萌えの見事な両立。映像の美しさ、物語の密度の濃さ。どれを取ってみても、この1年間のアニメ映画では断トツのクオリティの高さでした。2時間43分という長さを全く感じさせない映像造り。原作やTV版を知らない人でもストーリーに入っていける丁寧な作劇。TV版も是非続けてほしいです。


武本監督 
制作に当たっては、本当にたくさんのスタッフに関わってもらいました。スタッフを代表していただいた賞だと思っています。また応援して下さったファンの方々の力あってこそ、受賞に結びついたと思っています。『消失』を応援して下さった全てのファンの方にお礼を言いたいです。


朴訥とした印象のある武本監督。服装もラフな私服で、決して自作を雄弁に語る人ではないようですが、作品作りへの真摯な姿勢が伝わってきました。


【作品賞・テレビ部門】:『けいおん!!
壇上のスクリーンには2期OP(GO!GO!MANIAC)の映像が流れます。ノンクレジットの珍しいバージョンでした(※権利の関係か、USTREAMの配信では映像がカットされたそうです)。


山田尚子監督の登檀。


週刊アスキー総編集長 福岡氏のコメント: 
(開口一番)あずにゃん。可愛いですねー(笑)。自分はアスキー・メディアワークスに勤めていますが、今回「ゆりっぺ」は、まあいいかと思った(笑)*1。バトルもなければ激しい展開がある訳でもない、それなのになぜこれほどまでに我々はこの作品に魅了されるのか。満場一致での授賞決定です。山田監督とは今日初めてお会いしたが、とても可愛らしい感じの人で、萌え死にそうです(笑)。


福岡氏の言葉はお世辞ではありません。初めて拝見した山田尚子監督の御姿は華奢で小柄でとても綺麗な方でした。見た目の印象は唯と似た感じのブラウンの髪で襟元までのショートカット、分け目は唯とは左右逆。その上で目元の表情を澪に似せたような感じ。印象的なきりっとした眼差しは意思の強さを感じさせます。勝手に想像していた唯のふわふわした雰囲気ではなく、可愛らしいというより理知的な印象を受けました*2


山田監督 
はじめまして、山田尚子です。(言葉を探すように少し言い淀んだ後、不意に思い出したように)あ、ロビーに花を頂きまして、思わず写真撮影してきました。ありがとうございました*3。先程のお二人と同じく、この作品にはたくさん関わった人がいます。『けいおん!!』は大きな闘いもなく・・・でも、中身はあったと思うんです(笑)。じっくりとあったかくスタッフみんなで力を合わせて描き切った、大切に思っている作品で受賞できました。ありがとうございました。


【作品賞(ネットワーク部門)】:「ミクの日感謝祭 39's Giving Day」
(株)セガから代表者(※名前を聞き漏らしたので不明)の登檀。


今年の審査委員長であるコンテンツメディアプロデューサー櫻井氏のコメント: 
今、世界で一番人気のあるコスプレと言えば間違いなくミクだ。リン、レンも急上昇中。ルカはちょっと少ないかな(笑)。


(株)セガ代表
我々はミクをヴァーチャルアイドルとは思っていません。ミクの人気は送り手から受け手への一方通行ではなく、ニコニコ動画等を介した相互のインターフェイスによって普及しました。うちの会社はこれまでコンサートを手掛けたことがなく、経営層にはゲームを作っていると半ば嘘をついて企画を通しました(笑)。なんとしてもミクを実際のステージに立たせたかったんです。


【特別賞】:(株)美峰
背景美術を手掛ける「(株)美峰」が特別賞を授賞されました。
こういった領域にスポットライトを当て、その功績に賞を授与するという意義は極めて大きいと思います。代表代理として登壇された方が「この賞を頂くことは、全ての背景会社にとって大きな励みになる」と語っていましたが本当にその通りだと思います。


【主題歌賞(ラジオ関西賞)】:"Only My Railgun" / fripSide(「とある科学の超電磁砲」OPテーマ曲)
fripSideの2人が登場。会場からはひときわ大きな声援が沸き起こります。
ラジオ関西特別賞ということで、番組「青春ラジメニア」パーソナリティーの岩崎和夫氏がコメントを寄せます。


岩崎アナ: 
忙しい身なのでアニメを見る時はOPとEDを飛ばすことが多いのですが、レールガンだけは必ずOPを2回見ました(笑)。


南條愛乃氏(Vo.) 
神戸に来るのは初めてです。昨晩は牛肉を食べました(笑)。
八木沼悟志氏(プロデュース)
曲のイメージは科学・エレクトロニクスというキーワードを元に、とにかく"ビリビリ"させてやろうと。


人前で生で歌うことは滅多にないというfripSideでしたが、機材準備の少しの時間の後、"Only My Railgun"の貴重なライブステージを披露しました。演奏は恐らく用意したオケを流してのものでしょうが、ボーカルは口パクでなく生の歌声でした。会場はレールガンファン(あるいはfripSideファン)が多いのか、激しいビートで一気に会場もヒートアップしてゆきます。フルコーラスでの演奏でした。


最後に受賞者全員での記念写真です。客席に向けてパイプ椅子が設置され、そこに受賞者が座ります。中央に細田監督と山田監督。その右横に武本監督。すごい光景です。客席中央からカメラマンがステージに向かって撮影を行ないます。


審査委員長櫻井氏による閉式の言葉です。


櫻井氏の「実は1日早い昨日の内に関西入りして、西宮界隈をウロウロしていました」の発言に拍手喝采。「図書館に行って長門の気分を味わえました」の言葉に場内爆笑。「自分は仕事柄、世界中のアニメのイベントに参加しています。先日までロシアにいました。言葉も通じない国のアニメファンと打ち解けるためにはまず何をすれば良いか。簡単です。「けいおん!のキャラで誰が好き?」と聞くだけでいいんです。それだけで壁がなくなります」


ここで櫻井委員長は、自分が思う『けいおん!』の魅力は、「学生時代に誰もがやっているようで誰もやっていなかったことへの"郷愁"だ」と喝破されました。この見解は鋭いと思います。


櫻井委員長:
日本と接点のない国へ行って、日本のアニメを大好きでいてくれるファンの人達に、それは間違っていないし、それは正しいと伝えてきました。自分はかつて細田監督の講演を最前列で見たことがあります。その時に監督が仰った「世界の若者を全肯定したい」という言葉に激しく共感して、この活動を続けています。今や日本のアニメやアニソンは、世界のボーダーを崩しているんです。


以上で授賞式は終了。
ここから後は、ラジオ関西ラジメニア」のパーソナリティー岩崎氏・南氏と、細田守監督とのトークショウ。以下は印象に残った発言を抜粋します。


細田監督
自分のアニメの原体験は「東映まんが祭り」のマジンガーZです。それからアニメが好きになって、1979年に見た『銀河鉄道999』のりんたろう監督、『ルパン三世 カリオストロの城』の宮崎駿監督のそれぞれの絵コンテに激しい衝撃を受けて「絵コンテを描く仕事がしたい」と思うようになりました。アニメ制作には監督という人がいて、絵コンテという設計図を引く人がいるということを子供心に知りました。自分は監督になりたい訳でも原画を描きたい訳でもなく、ただ絵コンテが描きたかったんです。先輩からは「いっぱい描かないと上手くなりませんよ」と指導されました。ただでさえいっぱい描いている人からそれを言われて困りました(笑)。


ハウルの動く城』の件に話が及びそうになった時は、ごにょごにょと言葉を濁してそのままスルー。


細田監督
東京が文化の中心でなくなってきています。京都や富山のような地方発信のアニメが活性化しています。事実、今日はまさに京アニフェアでした。来年は全ての賞を京アニさんが受賞するんじゃないですか(笑)。長田に出来た新スタジオからは是非、神戸印のアニメを世界に向けて発信してほしいですね。


岩崎アナ
時をかける少女』『サマーウォーズ』で細田監督の助監督を務めた『世紀末オカルト学院』の伊藤智彦監督は、「青春ラジメニア」のリスナー出身者なんですよ。最近でもご本人から番組宛てに葉書が来ただけでなく、OPテーマ曲のリクエストまで来たので「これ本物かなー?」と言っていたら本当に本人だったということが(笑)


細田監督
自分の新作は2~3年後(2012年)の公開を予定していますが、今はまだ何もお知らせできない。女の子が主人公なのは確かです。*4


トークショウは17:40に終了。閉会の挨拶とともに4時間40分に及ぶイベントは幕を閉じました。長丁場でしたがちっとも長いとは思わない充実したイベントでした。「アニメーション神戸」はその賞の性質や企画運営の思想も含めて、大変素晴らしいイベントだと思った次第です。


最後に当日無料配布されたパンフレットの画像をUPしておきます。スキャナを持っていないのでデジカメ撮影によるものですが・・・。
http://twitpic.com/3bmd70
http://twitpic.com/3bmdj9


以上

*1:同年4-6月にTV放映された『Angel Beats!』のキャラクター

*2:今から思えばこの時の山田尚子監督はひどく表情が硬く、かなり緊張されていたのかもしれません。その後、舞台挨拶やトークショーなどを重ねて場慣れされてからは、もっとリラックスした、ある意味「天然ボケ」的なキャラの方が馴染み深いものになっています。

*3:twitterの有志「放課後フラワータイム(HFT)」がお贈りしたスタンド花のこと。筆者もメンバーの一人。当日会場にお贈りした花の写真はこちら。画像をクリックすれば拡大してご覧になれます。                        

*4:2年後の2012年夏に公開された「おおかみこどもの雨と雪」のこと。