【レポート】『この世界の片隅に』公開記念!ネタバレ爆発とことんトーク!@新宿ロフトプラスワン(2016/11/20)

(記事公開後、多くの方々よりご指摘・アドバイスを頂戴し、ニュアンスの違いで誤解を与えそうな表現や当方の明らかな誤認識にあたる箇所を修正いたしました。ありがとうございました。2016/11/23)

2016年11月20日(日)に新宿ロフトプラスワンにて開催された「『この世界の片隅に』公開記念!ネタバレ爆発とことんトーク!」の簡易レポートです。


元々はレポートを書くつもりはなく、いつものようにメモ帳を手元に置いて、興味を引いた箇所だけ随時メモっていたのですが、イベント終了後、twitterでその一部を呟いたところ、こちらの想像を遥かに越える反響があり、このトーク・イベントへ寄せるファンの皆さんの関心の高さに驚かされることになりました。f:id:los_endos:20161121220228p:plain
新宿ロフトプラスワンへ下る階段脇にある告知。

以下のレポートは、先にtwitterで紹介した文章を補足した上で再録し、呟けなかった内容も大幅に追加したものです。またtwitterでは時系列も発言者も分からないランダムな書き方をしましたが、ここでは第1部~第3部までの流れに沿った形で採録します。ただし上述の通り、レポート作成を目的としたメモ録りではないので、トークのすべてを書き取っている訳ではありません。その点はあらかじめご容赦ください。また適当なメモであるため、事実誤認があるかもしれません。その点についてはご指摘いただければありがたく思います。


なおイベント冒頭に主催者からの注意事項として、SNSでの情報の拡散はOKだが、

1.映画を観ていない人のためにネタバレに類することは呟かないでほしい。
2.オープンにされるとまずい内容については、司会者から指示するのでオフレコにしてほしい。

というお願いがありました。

最初の1.については、ブログ内なので特に問題はないと思います。ここから先は自己責任で進んでくださいと言うに留めておきます。2.については、途中で「ここは書かないで」というシーンが実際にありました。この部分については仰せの通り、記事にはしていません。また特に指示はなかったものの、これは書くべきではないと思われる箇所についても自主判断で掲載を控えています。元々すべてのトークをメモ録りできていたわけでもないという事情も含めて、当記事はコンプリート版ではありません。あらかじめご了承ください。

 

第1部
登壇者:片渕須直(監督)、こうの史代(原作)、真木太郎(プロデューサー)
(敬称略)
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壇上左から2人目が片渕須直監督、右に原作者のこうの史代さん、真木Pの順。第1部のみ撮影OKでした。


・監督はかなりお疲れなのか、オーダーしたドリンクはいきなり「レッドブル」。

・上映2週目を迎えたが、1週目より興行収入が上回っている。この土日だけで2割増し。週間ベースなら恐らく5割増しまでいけるのではないか。こういう作品は年にせいぜい1~2本くらい。本作はまさにこれだった(真木)。

・儲かって悔しがっている人がいる(真木)。

・60~70歳代の客層が多いので、学生や勤め人が観られない平日昼間の客席の埋まり具合が非常に良い(片渕)。

・ネットの情報に詳しくないこの世代の方々に広まってきたのは、新聞・ラジオ・NHKの宣伝が大きいと思う。民放のテレビ局はある事情でこの作品の宣伝や紹介をしてもらえない。この映画を周知する上で一番大きな働きをしているのがSNSの書き込み(真木)。

・今回は失地回復のための負けられない戦いだった(片渕)。

・この作品はプロデュースに反対する人が多かった。こんな作品は世の中は欲していないと決めつけられた(真木)。

東日本大震災の当日17:00に双葉社で会議の予定があって、ヘルメットを被っている人達の脇をくぐりぬけて双葉社へたどり着いたら「来たんですか」とびっくりされた(片渕)。

・最初のロケハンはその後の2011年5月。そこからも長く予算がつかず、雇っているスタッフ3人分の給料を全部立て替えていた(片渕)。

クラウドファンディングの初日、もし金額の伸びが悪いようなら自分が100万円ぶっこんでやろうと思っていた。しかし数時間で予想以上の金額になったので、その必要もなくなり取り止めた(真木)。

・ちなみに100万円という出資枠は、実際に100万入れる事態になった時を想定して自分用に用意していたもの。結局、自分以外にも誰もこの額で出資する人はいなかった(真木)。

・制作費は当初の想定の40%分をカットした。その結果、絵コンテも大幅に切った。その時カットしたコンテは、今販売している絵コンテ集にも載っていない。最初のコンテは2時間30分くらいだった(片渕)

クラウドファンディングに参加していただいた3,374人の皆さんがこの映画の初日を支えてくださったと思っている(真木)。

・なんであれほど集まったのか。それは正直なところまだよく分からない。応募者のいない都道府県はひとつもない(真木)。

・今の世の中、映画もテレビも金が集まりやすいものばかり溢れている。しかし金の集まりにくいものこそ、本当に人が観たかったものではないか(真木)。

・片渕監督の自主映画で始まったものが市民映画となり、今や草の根的な口コミ映画となっている(真木)。

・先にもあったが、とある事情でこの映画は民放各局のテレビで取り上げてもらうのがむずかしい。だからSNSの書き込みがものすごく大事(片渕)。

twitterの呟きの数は、この土曜日の段階で『君の名は。』を追い抜いたとのこと(司会者)。

・公開初日より1週間後の方が客付きがいい。こういう現象はちょっと今までにない(真木)。

クラウドファンディング支援者に向けて送られる特典に「すずさんからの手紙」があった。これは計4枚、季節を変えて順番に送られてくるという趣向だったが、4月を最後にぷっつりと途絶えてしまう。その理由を本編の内容と合わせて考えるととても悲しい(片渕)。

・中の人(こうの)が宛先の住所も手書きするという話があったが、さすがに3,374人は無理なので諦めた(片渕)。

・すずさんからの手紙は消印にもこだわりがあり、実際に呉の街で投函して発送している。呉の本局であれば3,374枚を一回で持ち込んで、風景印を押して発送してもらえるが、段々凝った趣向になってきて、次は辰川の支局から出そうと思ったところ、小さな郵便局なのでとても一回では捌けない。預かってもらうということもできないため、呉の協力者に毎日少しずつ持ち込んでもらった。その時、毎日すずさんの歩く道のりを想像しながら通っていたと聞いた(片渕)。

・海外での公開を目指して現在営業活動を続けている。英米、欧州各国、メキシコ、南米諸国、台湾、韓国ですでに上映が決定していて、中国は字幕版の作成を待って営業をかける。メキシコには日本の自動車企業(マツダ)の工場があり、そこの福利厚生の一環として2万枚のチケットの引き合いがあった(真木)。

 

 

第2部
登壇者:片渕須直(監督)、こうの史代(原作)、尾身美詞(黒村径子役)、新谷真弓(北條サン役)
(敬称略)

・(広島出身の)新谷さんにはキャスティングが決まる前に、広島弁指導のために映画1本分の脚本をすべて1人で収録してもらった。この「方言テープ(実際はCD)」をキャストに配布した。ただし後の人が影響されないように、イントネーションが分かる程度にとどめて、役柄に色がつかないフラットな声を入れてもらった(片渕)。

・しかしその中でも、北條のお母さんのサンさんの声だけはちゃんと芝居がついていた。サンさんがそこにいた。これだけは他の人では二度と出てこないのではないかと思って、新谷さんをサンさんにキャスティングした(片渕)。

・尾身さんの黒村径子さんの役は、尾身さんのマネージャーから「よくぞ尾身からこんな役柄を引き出してくださいました!」と感謝された(片渕)。

・新谷さんのサンさん、尾身さんの径子さんの母娘は声質が似ている。そのため、二人の間にすずさんの声が入ってくると、よそから嫁にやってきた感が強く出る(片渕)。

・のんさんのすずさんと尾身さんの径子さんの遣り取りは実は別録り。のんさんの収録が後だったが、仕上がりを観てみると実際に二人がそこにいて会話しているようにしか聞こえない。のんさんが径子さんの声をしっかり受け止めた上で演技をしているのに驚いた(片渕)。

・リンさん役の岩井七世さんは、すずさんの役が決まらないと決められない役どころだった。収録ものんさん(すずさん)と一緒に録っている(片渕)。

・のんさんは広島弁に苦労していたが、彼女はとても耳がよく、新谷さんが手本を見せるとそれを正確に聴きとって次にはもうマスターしていた(片渕)。

・もうサリヴァン先生の心境だった。W・A・T・E・Rキターッ!!みたいな(新谷)。

・漫画ではなんと描いていいか分からない「くうぅ」とか「んあぁ」といった台詞がのんさんの声で入っているのが嬉しかった(こうの)。

・片渕監督自身も声優として声を出しているシーンがある。「イチ!はい!ニ!はい!サン!はい!」とか「後進一杯、よーそろー」とか。

・80歳代のお客さんが青葉が映っている場面の隅の方を見て「あれワシの家じゃ」と仰った(片渕)。

 

第3部
登壇者:片渕須直(監督)、こうの史代(原作)、尾身美詞(黒村径子役)、新谷真弓(北條サン役)、藤津亮太(アニメ評論家)、氷川竜介(アニメ研究家)
(敬称略)

・ようやく同時代的に片渕監督の作品が評価されて感慨深い(氷川)。

・この映画は当たってほしかった。いい数字が出るのは本当に嬉しい(藤津)。

twitterでは色々な作品見解を知ることができて面白い。最近ではキャラクターの名前が元素に基づくものという指摘があって「おおっ」と思った(氷川)。

・キャラクターの名前をいちいち考えるのが面倒だったので。最初は『夕凪の街 桜の国』と同じように地名で揃えようかと思ったが、広島と違って呉の地名は「なんとか中央」ばかりで可愛いものがない。船の名前だと劇中で本当に船名を出すので紛らわしい。たまたま手元に元素の周期表があったのでそこから名前を拾った。新しいキャラが出るたびに周期表を見ていた(こうの)。

・自慢になるかもしれないが、自分はこのことに気付いていて、それで最後に登場する戦災孤児の少女の名前を元素の周期表に倣って「ヨウコ」にした(※筆者補足:元は恐らくヨウ素。絵コンテ集には記されているとのことですが、筆者未読のためカタカナで表記します)。こうのさんに聞いたら「兄が要一なのでいいのではないか」と認めてもらった(片渕)。

・たまたま周期表があるというのがすごい。こうのさんは高校の時は化学部だった。理系の人(片渕)。

・片渕監督もファクトを丹念に積み上げるという意味で理系を感じる(藤津)。

・全体像が見えないと「片隅」が描けない。だから正確なディティールの積み上げにこだわった(片渕)。

・映画のヒットに合わせて原作の重版がかかった(真木)。

・オリジナルの3冊版(上中下巻)の後で出版された2冊版の方は、テレビの実写版ドラマの放映(2011年)に合わせたものだったが、大量に刷りすぎて長く在庫になっていた。重版がかかったということはそれもはけたということでホッとしている(こうの)。

・原作の原稿展示は廿日市と調布で過去にやったことがあるが、いずれも部分展示だった。今回のように全原稿のすべてを展示したのは呉市立美術館だけ。原稿はすべて呉市立美術館で保管されているので、この先、また何かの機会で(全原稿は無理でも)展示されることがあるかもしれない(こうの)。

・この先、『この世界の片隅に』をもっと世間に広めていくにはどうしたら良いか?(司会者)

・『君の名は。』は圧倒的に10代の支持を集めている。『この世界の片隅に』に足りないのはこの層。『君の名は。』の3%くらいをこちらに落としてもらう作戦はどうか(笑)。200億円の3%は大きい(氷川)。

・『君の名は。』のこの部分は『この世界の片隅に』のここと共通しているよとか、そういったアピールをしてみては?(笑)(こうの)

・実際、若い人には観てもらいたい。本気で「観た後に配偶者がほしくなる映画」にしたかった(片渕)。

・この映画は夫婦になっていく作品でもある(藤津)。

・「親子連れの客が増えてます。子供は40歳」という話を聞いた(片渕)。

 

まとめ
登壇者:全員+飛び入りゲストの岩井七世さん(リンさん役)

・パンフレットが最初の週に品切れになってしまって申し訳ない。最初に13,000部刷った。その後、8,000部を増刷。紙質が特別で静岡で作ってもらっている。お客さんの40%が購入している(真木)。

・こんなに仲間がたくさんいて負ける気がしない。何と勝負しているという訳でもないが、本気でそう思う(片渕)。

・のんちゃんと一緒に収録したとき、リンさんの残り香を鼻でくんくんするシーンで、息を吸い込んだ状態からくんくんやっているのでいつまで経っても音が出ないのが可愛かった。それを見かねた監督が「息を吐いていいんだよ」と仰っていたのが可笑しかった(岩井)。

・キャラデザ・作画監督松原秀典さん(=エヴァンゲリオン等)は、自分の絵柄だと分かってしまったらダメだと思って頑張ったと仰っていた(片渕)。

・その方が良かったのでは(笑)(こうの)。

・自分の漫画は誉めない旦那が映画は絶賛していた(こうの)。

・ある日、サントラCDの「みぎてのうた」を聴いていて、これは私のことだと思った(こうの)。

・「のんちゃん役の・・・」と思わず言ってしまう真木Pのハプニングあり。

・最後に客席にいた広島弁監修の栩野(とちの)さんも登壇され、いきなり「憲兵です」。ほかにも6人ほどの声を出しているので探してねとのこと。次回の阿佐ヶ谷ロフトでのイベント(12/11)では北條家を再現したレプリカの模型を出すのでよろしくとの告知。

 

19:00から始まったトーク・イベントは各50分ずつくらいの時間枠で進行し、終了は22:00過ぎ。3時間を越える濃密なトークショーでした。

(2016/11/21 記)