【舞台探訪】『たまこまーけっと』:TVCM & 新規キービジュアル探訪 ~鯖のいる透視図

たまこまーけっと』PV第4弾と番宣のTVCM、および新規キービジュアルが公開されました*1
今回発表されたキービジュアルは、今後長く使われるであろう決定版のデザインだと思います。そう考える理由については最後にまとめます。
公式サイト

12/20公開の新キービジュアル。例によって"宙を泳ぐ鯖"の登場です。今後、このオブジェは「うさぎ山商店街」の象徴として本編内で幾度も描かれることになるでしょう。今回は左右の店舗の描き込みにも注目。鯖が手前を向いているので、東向き(河原町通方面)のアングルです。クリックすれば拡大してご覧になれます。


今回のCMでようやく"動くたまこ"の姿を目にすることが出来た訳ですが、映像では商店街の中を歩くたまこ*2の背後に出町桝形商店街に実在する店舗の一部が登場しています。今回はそのご紹介と、TVCM&キービジュアルから読み取れる舞台関連の情報を整理しておきます。


このカットは鯖のオブジェ(=通称若さばちゃん)のほぼ真下から東方面(河原町通方面)を向いたアングルです。画面左側に見える看板のある店舗のモデルは「リビングショップ まつむら」さんです。キービジュアルの左下中央に見えています。

手前の看板の角度と奥の柱の傾きを同時に合わせることがままならず、なかば妥協した結果、このような写真しか撮れませんでした。



こちらのカットも先の写真の撮影位置とほぼ同じ場所です。ただし反対に西方面(寺町通方面)を向いたアングルです。これらのカットは一見すると連続したシーンのように見えますが、たまこの歩いている方向が逆なので、これは時間が経過してUターンして戻ってきた場面なのだということが分かります。そういえば後の方のキャプには、いつの間にかたまこの頭上に鳥が乗っています。


たまこの背後には鯖のオブジェの尻尾が見えており、画面右奥には魚屋の「久喜」さんの店頭に掲げられている"もうひとつの鯖のオブジェ"が見えます。以前の記事でも触れましたが、元々は「鯛」だったものを青く塗り替えて「鯖」にしたものだそうです。


この写真については、天井の鯖と店頭の鯖の2つの魚をキャプと同じバランスで画面に収めるのが難しく、これも完全な再現は無理でした*3

赤い垂れ幕状のものに文字が書かれているのは、加茂川マコトの垂れ幕がモデル?



次に新規公開されたキービジュアルを見ていきましょう。
これは第3弾の絵*4とほぼ同じ場所からの同じアングルですが、もう少し後ろへ引いた一点透視図となっており、たまこと鳥を中心に据えて、左右両サイドに店舗を描きこんでいるという違いがあります。

→こちらをクリックすれば写真の拡大版をご覧いただけます。
→こちらをクリックすればキャプの拡大版をご覧いただけます。


天井からぶら下がる鯖のオブジェをキャプと同じ比率で捉えつつ、かつ左右の店舗(特に吊り下げ型の看板)を同じ構図内に収めるためには、中距離からズームで引っ張る必要があり、私の手持ちのコンデジと撮影技術では再現が難しくかなり苦戦しました。しかしこの撮影のしづらさには理由があって、これについては後述します。


ちなみに上掲の写真右側は、阿闍梨餅の店頭販売(準直売店)もされている「マツヤ食料品店」さん、左側は肉屋の「野口屋精肉店」さんです。

マツヤ食料品店さん店頭の「阿闍梨餅」の草色の幟。劇中では「兎山煎餅」となっています。この写真では分かりにくいのですが奥の缶詰の陳列もほぼ忠実に再現されています。以下の写真をご参照下さい。




同じくマツヤ食料品店さんの「阿闍梨」の扁額と、その下の店頭販売コーナー。キービジュアルの看板には「兎」の一文字が見えているので、左から右に「兎山煎餅」と表記されるのでしょう。


先のキャプでたまこが抱えていた紙袋には「肉のジャストミート、コロッケ」と書かれていますので、彼女が歩きながら頬張っているのがコロッケであることが分かります。その肉屋の「ジャストミート」は、キービジュアルでは十字路左側角の店として描かれています。店頭のデザインこそ変更されているものの、「野口屋精肉店」さんがモデルであることは間違いありません。

ちなみに野口屋精肉店さんではコロッケの販売はしていません(すぐ近くのいづもや豆腐店さんでは店頭販売をやっていらっしゃいます)。



この他、キービジュアルの吊り看板から幾つか店舗の名称が読み取れますので、出町桝形商店街内の同位置に実在する店舗名とを比較してみます。

左側(手前から奥へ)
キービジュアル       出町桝形商店街の同位置に実在する店舗の名称と業種
さしみ              →   久喜(鮮魚)
ジャストミート          →   野口屋精肉店(牛豚肉・ハム・ソーセージ)
リビングショップ いつもの(や?)  →  リビングショップ まつむら(家庭日用雑貨)

右側(手前から奥へ)  "*"はキービジュアルで判別不能部分
キービジュアル       出町桝形商店街の同位置に実在する店舗の名称と業種
から揚* ジュー**       →   ちびから本舗(から揚げ専門店)
ミ*リ(兎山煎餅)         →   マツヤ食料品店(阿闍梨餅)(各種食料品)
呉服屋 むらさき          →   井上呉服店和柄和雑貨・呉服)

このように作中に登場する(であろう)商店は、出町桝形商店街に実在する店舗の業種に準じた形(肉屋なら肉屋という意味)で空間設計されていることが窺えます。
(※後に判明した店名は「リビングショップ いつもの」「から揚げ ジューシィ」「ミドリ」でした。:2013/1/13追記)


更に12/20に更新された公式サイトの「キャラクター」の最新情報では、上述した以外のものも含めてうさぎ山商店街の主要な店舗の名称が明らかにされています。先に分析したように「劇中に登場する商店は、その業種に準じた実在の店舗がモデルとして選ばれる」という法則が有効であるなら、ある程度まで情報が揃っていれば登場する舞台の事前推理も可能のはずです。やってみましょう。

現時点で、多分この場所だろう/可能性は低いが関連があるかも・・・/不明の3種類に各店舗を分類すると下記のようになります。


【多分この場所だろう】
・さしみ(魚屋)
・フローリストプリンセス(花屋)
・星とピエロ(レコード屋&カフェ)
・トキワ堂(おもちゃ屋)
・ジャストミート(肉屋)


【可能性は低いが関連があるかも・・・】
・うさ湯(風呂屋)(※後に錦小路堺町の「錦湯」と判明:2013/1/13追記)


【不明(分かりません)】 ※情報がなく今は推測しようがない
・清水屋(※後にいづもや豆腐店さんと判明:2013/1/13追記)
・みやこうどん(※後に満寿形屋さんと判明:2013/1/13追記)


では順番に説明します*5


■さしみ(魚屋)
※以下の記事執筆後に公開された「商店街MAP」で、「さしみ」は「久喜」さんではなく「さが喜」さんであると分かりました。しかし、(こちらの記事)で言及した通り、キービジュアルと整合性が取れないこと、また第1話の中でもこの「青い鯛」の描かれた店の吊り看板に「さしみ」の名前が見られることなどから、依然として矛盾は解消されていません(今のままでは「さしみ」が2軒存在することになります)。今後の描かれ方に要注目といったところです。なお、当初の文章は以下の通り、取消線入りで残しておきます(2013/1/13追記)。


魚屋の「さしみ」は先述した通り、キービジュアル左側一番手前の吊り看板にその名前が見えます。この位置に実在する商店は、本稿上から2つ目のキャプに鯖が写っている鮮魚の「久喜」さんの場所です。両者とも魚屋ですから、これはもう確定と考えて良いでしょう。

鮮魚店の「久喜」さん。この魚の中央部にある赤い筋状の部分が、かつて鯛だった頃の色の名残りなのだそうです。


■フローリストプリンセス(花屋) *6
先の2枚のキャプに関する文中で、これらの絵からたまこがUターンして元の場所に戻ってきたことが分かると書きましたが、その間に一体何があったのかについては、TVCMからおよその事情を察することが出来ます。以下の場面です。

多分、立ち寄った花屋の店内で「鳥」に出逢ってしまって、そいつが頭に止まったまま離れなくなって困っているといった流れでしょう。ということは、たまこの足跡を辿って、「リビングショップまつむら」さんの前から鯖のオブジェの下を通り過ぎて、もう少し西方向に進んだ辺りに「花屋」が実在するのではないか?という推論が成り立ちます*7。そしてそれは実際にありました。「花の春風」さんです。

厳密に言えばキャプに描かれている左側の木製BOXも右側のレンガ作りの段も見当たりませんし、床面も同じとは言えません。「断定はできないが、状況証拠だけはある」といった程度で今回は留めておきたいと思います。いずれ各店舗の詳細な情報が明らかになった時点で再検証するつもりです。

たまこの背後に見える木製のBOXは「花の春風」さんの店内にはありません。


■星とピエロ(レコード屋&カフェ)
この店もTVCMで一瞬店内が写ります。

特徴的と言えるのは、カウンターの上に置かれているアナログレコードのプレイヤーと水槽の2つです。実は出町桝形商店街内にある「喫茶華波(はなみ)」さんという喫茶店&BARの店内やカウンターに実際に水槽があることから、同店がモデルではないかと有力視されていたところ、舞台探訪者コミュニティのメンバーが早速現地取材されて、女性店主との会話から京アニのスタッフが取材に来た」との証言を引き出されています。店内の様子は劇中のそれとはやや異なりますが、確かにカウンターの上に水槽が置かれています。


■トキワ堂(おもちゃ屋)
出町桝形商店街の中におもちゃ屋は1軒しかないという根拠から、最有力候補としてこちらの「イカワトーイ」さんをご紹介しておきます。玩具・ゲーム・ぬいぐるみ・人形等を扱っていらっしゃいます。お菓子の家のようなファンシーな店構えはとてもアニメ向きだと思うのですが、どうでしょうか?

画像をクリックして「オリジナルサイズを表示」をクリックすれば拡大版をご覧になれます。


■ジャストミート(肉屋)
上述した通り、「野口屋精肉店」さんがモデルのはずです。ただし店構えが大きく改変されており、その変更の意図は気になるところです。


■うさ湯(風呂屋)
※1/9放送の第1話で銭湯のモデルは出町柳周辺ではなく、中京区の錦小路堺町下ルにある銭湯「錦湯」であることが分かりました。本稿執筆時点では下記の通り、商店街近隣の銭湯跡を予想していたのですが、場所も建物も共にモデルではありませんでした。「錦湯」につきましては、第1話探訪の記事内であらためて訂正の上、現地の写真を掲載致します。なお当初の文章は下記の通り、取消線入りで残しておきます(2013/1/13追記)。


出町桝形商店街一帯には、現在、銭湯はありません。しかし、かつて営業していた風呂屋の跡地が商店街の近隣に残っています。場所は鯖のオブジェ(=若さばちゃん)のある十字路から北へ100mほどのところ。「丁字湯」という看板が目を惹きます。この銭湯がいつまで営業していたのかは不明ですが、町家造りの面影を残す三階建ての立派な銭湯建築は周囲でもひときわ目につき、全盛期はさぞ客で賑わったのだろうと往時の様子が偲ばれます*8


TVCMには脱衣場の「格天井」が描かれています。額縁に入れられた写真やカレンダーや料金表などは妙にリアルで、この場面は実際に営業している銭湯を取材してきた可能性はあると思います*9。従って、例によって位置モデルと建物モデルは別という合成パターンかもしれません。



商店街の店舗や背景から推測できる情報は以上ですが、TVCMの中にはアーケードの中ではない風景が、わずか1カットだけですが登場しています。


この絵は鯖のオブジェ(若さばちゃん)がぶら下がっている十字路(=キービジュアルのポイント)の北側から南方向を見たアングルです。左側の電柱2本、右側の民家の細い柱を構図内に収めるためには、十字路から20~30mほど北に行ってそこから振り返ってややズーム気味に撮影しなくてはなりません。ちなみに商店街の人々が向かって行く先に、先程の元銭湯の「丁字湯」があります。


またキャプを見ると、アーケードの切れ目となる部分に右を向いた(西向きの)鯖の姿が描かれていますが、写真には写っていません。これは実際の鯖のオブジェは十字路の真上ではなく、もう少し左側(東方面)にぶら下がっているためで、写真では丁度隠れてしまっている訳です。キービジュアルを現地でアングル通りに撮影するのが難しい理由もここにあります。作画では鯖のオブジェは実際の位置より手前(西)にずらして描かれているので、両脇の店舗とのバランスが現実とは異なった描かれ方をしています。そのため、キービジュアルのアングルやサイズに合わせて撮ろうと思えば、奥に引っ込んでいる鯖をズームで引き出して手前の風景と圧縮して撮らないといけません。しかしそれでも元々異なる位置にあるものを無理に合わせようとする訳ですから、うまくいかなくて当然なのです。

劇中では十字路の中央に位置していますが、実際の鯖のオブジェはこのように商店街「中地区」への入口付近にあります(十字路の中央から東寄り)。


劇中の背景描写が現実のものと異なっている場合、そこには往々にして演出上そうせざるを得なかった何らかの理由があり、制作者の確信的な意図が込められているはずだ、というのが私の持論です。こういった劇中/現実の背景描写の差異を手掛かりにして、演出面での隠された工夫やそこに込められた暗黙のメッセージを考察し、読み解いていく作業もまた舞台探訪という活動の大きな醍醐味のひとつでしょう。現地に行くことで初めて気付くこと、あるいは現地に行かなければ分からないことが絶対にあります。ゆえに舞台探訪の活動成果は最終的に作品考察へとフィードバックできるはずだというのが私の基本的な考え方です。


という訳で、鯖のオブジェが十字路の真上にずらされた演出上の意図は、本編鑑賞の中でおいおい検証できればと思っています。


MAP

より大きな地図で アニメ「たまこまーけっと」舞台情報 を表示

地図は縮小表示していますので、必要に応じて上記の”より大きな地図で〜”の後のリンク先をクリックして拡大して下さい。ブラウザがIEなら、アンカー上でマウスを右クリックして<新しいウィンドウで開く>を選択頂ければ、別ウィンドウが開くので便利かと思います。


長くなりましたが最後に今回のキービジュアルの印象についてひとこと。

この一点透視図法のキービジュアルで私達の視線が焦点を結ぶのは、画面中央にいるたまこと鳥、そして宙を泳ぐサバです。他には誰もいません。よく見ると左右の店舗は微妙に湾曲して描かれており、視線は否応なく中心に向かいます。


たまこはひょいっと宙に浮かび上がっています。一切の力みを感じさせることなく軽やかにふっと飛び上がった瞬間を捉えたこの絵は、中空に浮遊してそのまま静止しているような奇妙な静寂感に満ちています。その頭上ではオウムに似た鳥がたまこの仕草を真似るように両の翼を広げてポーズを決め、更にその上では巨大な魚が悠揚と空を泳いでいます。


空を飛べるはずのない「人」と「魚」が重力の法則を無視するかのように中空に漂い、重力を振り切って飛ぶことの出来る「鳥」がたまこの頭の上にちょこんと立って、確かな質量をもってじっと居留まっています。この絵で重力を感じさせるのは「人」でも「魚」でもなく、「鳥」であるという奇妙な逆説。宙に浮くべきものが浮かず、浮くはずのないものが浮いている、そんなちょっと不思議な世界。


作品世界を象徴しているような示唆的なキービジュアルだと思いませんか?私はとても気に入りました。


P.S.
余談ですがたまこの首筋にはひとつホクロがあります。こういうこだわりも興味深いですね。


(2012/12/24 記)

当記事に掲載した『たまこまーけっと』の画像は、著作権法32条に定める比較研究を目的としての引用であり、当該画像の著作権は全て、京都アニメーション/うさぎ山商店街に帰属します。

*1:公式サイトのPV第4弾はTVCM(15秒)と内容的には同じものです。ともに12/20(木)未明の『中二病でも恋がしたい!』最終回(第12話)放映後に発表されました。なおBS11で放映されたスポットCMは30秒のロングバージョンで、当然のことながらこちらの方がカット数は豊富です。本稿はこのBS11の30秒バージョンのCMをベースにしています。→『たまこまーけっと』BS11 番宣CM30秒Ver.

*2:アニメージュ」2013年1月号の山田尚子監督へのインタビュー記事によれば、「みんなに愛される価値のある子としてたまこを登場させたくて、第1話の冒頭で商店街を歩かせた。『たまこまーけっと』の世界を象徴するシーンになると思う(山田)」との発言があり、恐らくその場面の一部であろうと思われます。詳細は 12/11付の拙文の最後の部分をご参照下さい。

*3:鯖の尻尾の角度も劇中の描写とは幾分異なっています。

*4:この絵です。

*5:これ以外にも、TVCMには登場しているが公式サイトには紹介されていない「イタリア料理(?)」のような店舗があります。こちらに関しては【不明(分かりません)】と同じ扱いとしています。また肝心の「たまや」も似た作りの建物が出町桝形商店街にはないことからペンディングにしています。

*6:店主の花瀬かおるさんのCV担当声優さんの名前は、思いっきりネタバレになっています・・・

*7:同時にたまこの自宅=餅屋「たまや」は商店街の中央から東側にあるということも分かってきます。

*8:豊かな地下水に恵まれた京都は「水が育んだ町」であり、それゆえ銭湯天国としても知られています。さすがに数こそ減りましたが、今も市内各所には昔ながらの銭湯が現役で営業されており、地下水を汲み上げて沸かしているため、泉質はミネラル成分豊富で湯ざわりも大変滑らかです。ちなみに『けいおん!』第11話(『ピンチ!』)の回に澪と和が訪れた喫茶店の舞台として登場している「さらさ西陣」も、平成11年に廃業した「藤森湯」という銭湯を改修したものです。店内のマジョリカタイルが当時の面影を今に伝えています。

*9:ただし入浴料が大人320円とあるのは、一体いつの時代の話なのかとちょっと首をひねりたくなります。平成24年時点の京都府の入浴料は大人410円、子供150円です。平成12年10月に大人350円、子供140円に料金改定されていますから、それ以前の時代ということになってしまいます・・・(これ以上は追求しません)。