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【レポート】『四畳半神話大系』トーク・ショー:森見登美彦氏(原作)×上田誠氏(脚本)~宇宙、京都、四畳半~(その2)

(【その1】へ戻る)
その1←

■第1話:鴨川デルタの花火襲撃

上田:
では、この辺で第1話から順番に振り返ってみましょうか。第1話で鴨川デルタの宴会に花火を撃ち込むってシーンがありますが、あの話は実話ですか?


森見:
花火は自分でやったんじゃないんですけど、対岸にクラブの先輩*1が現れて打ち込もうとして失敗したという話を聞いて・・・。その時、僕は爆撃される立場だったと(笑)。


上田:
花火のシーンは華があるでしょう?第1話は派手に始めることになっていたんですよ。

四畳半神話大系(第1話)より:デルタに向けて花火を放つ小津


森見:
あのデルタのシーンは樋口さんを出すためのものですね。直後の縁結びの神様の話に繋げるためです。

四畳半神話大系(第1話)より:下鴨幽水荘の怪人、樋口師匠


原作は4話同時に書いていたので、実はどの場面をどうやって思いついたかは思い出せないんです。事前に計画を立てて書くのが苦手で、メモにはキーワードだけしかありません。ある程度、書き出してからタイムテーブルを作ります。


上田:
パズル的な物語はあまりやりたくないとお聞きしましたが?


森見:
小説を書き始めた最初の頃は、アクロバティックな要素を入れないと(物語が盛り上がらないんじゃないかと)不安だったんです。それでひどく苦しみました。書きながら、或いは書き終えてから気付くことが多いので、最初は適当に書き始めます。『四畳半』はまさにそうでした。太田出版*2の編集の方には「最後でひとつになるから最後まで待ってくれ」と言いました。「もちぐま」のエピソードは4つの平行世界を最後まで書き終えてから、後で書き加えたものです。
アニメ化で4つの物語をどうするのかと思っていましたが、まさか更に細かく9つに分けるとは思いませんでした。もっと難しいことになってる(笑)。


上田:
第1話の脚本は、最初の構想では主人公の部屋の説明をして、そこへ小津がやって来て、花火のエピソードが始まる辺りで終わるつもりだったんですけど、湯浅監督が「いやまだ入る。明石さんを出しましょう、焼肉のシーンも入れましょう。それから橋の上のシーンも入れましょう」って仰ってですね(笑)、え、そこまで詰め込むの?ってくらいに。台詞の分量が1時間もののドラマよりも多くなっていました。出来上がりを見てみたら、案の定、すごい早口で喋っているから(笑)。*3


森見:
初めて見た時、これ聞き取れるのかな?と心配しました(笑)。


上田:
監督は「皆さんDVDで見るから大丈夫でしょ」って(笑)。最初から熱心に入れ込んで見てくれる人を想定して作るんですから・・・。そんな妥協のない作りは最後まで徹底していました。

■第2話:映画サークル「みそぎ」。命名は実は適当?

上田:
第2話は映画サークル「みそぎ」です。映画サークルに出入りされていたことは?


森見:
あまり縁はなかったんですが、なぜか小説に出してしまうんです。いっぱい人が集まっていて漠然と創造的な感じがするので書きやすいんでしょうね。


上田:
「みそぎ」という名前はどこから?


森見:
覚えてないですね・・・。なんで「みそぎ」なんかな?身の回りで「みそぎ」って言葉と触れ合う機会ってあまりないですよね(笑)。


上田:
普通ないですよ(笑)。「福猫飯店」は?


森見:
なんでか分からないですね・・・。「図書館警察」というのは、スティーブン・キングの小説から取ったものです。夜に大学図書館返却ポストに行くと、いつもそこだけスポットライトが当たっていて、本を入れた途端、ガタンと床板が開いて地下室に転落して、そこで拷問を受けるみたいなイメージが・・・(笑)。
名前の由来って、曰くありそうに見せかけて実は何もないことが多いです。


上田:
でも秘密組織で「飯店」はないでしょ?(笑)


森見:
小津の恋人の小日向さんの扱いも結構いい加減でしたね(笑)。上田さんと湯浅監督がなぜか小日向さんに強い思い入れがあって、「あれは物語の鍵だから!」って仰って色々質問されたんですよ。「小日向さんって一体誰なんですか?」って。答えられなくて恥ずかしかった(笑)。
自分の書いたものを読み返すことはあまりないんです。読んで面白かったら「今の自分より面白い」と思ってヘコむし、つまらなくてもやっぱりヘコむし(笑)。過去の作品は自分の中では「思い出」なんです。だからあまり確かめずに過去作品のキャラクターを再登場させて矛盾が起こったりする。


上田:
湯浅監督のこだわりは僕らにも分かりません。いきなりラブドールで1話いけるよね!」とか(爆笑)。「小日向さんがね、光ってるんだよ!」とか。


森見:
不思議な人ですねぇ(笑)。

■第3話:自転車部と鳥人間と琵琶湖一周

上田:
僕らは京大の鳥人間コンテストに出場するサークルの横で芝居を作っていた時期があるんです。3話はどこまでが森見さんの実体験なんですか?


森見:
ママチャリで琵琶湖一周したことがあるんです。


上田:
え?


森見:
留年してブラブラしている時に仲の良かった友人が突然「夏の思い出作ろうぜ!」と言い出して、8月末の朝4時にママチャリで銀閣寺前に集合して行きました。二泊三日かかった(笑)。富士山登山と同じくらいつらかったですね。


上田:
野宿?


森見:
銀色のビニールシートみたいなのあるじゃないですか。あれをハサミで半分に切ってその上で寝ました。


上田:
第3話は最初、軽音楽部の話にしたかったんです。この作品は最後に必ず主人公が「落ちていく」という終わり方にしたかったんですね。それで「誰もいない客席にダイブする」ってシナリオ出したら、これがもう監督がまったく気にいらなくて(笑)。


森見:
蹴上のインクラインを出そうというのは監督のアイデアですか?


上田:
あの場面は、明石さんが自転車で並走するというイメージが先に監督の中にあったらしいんです。そこから場所を決めてストーリーを作り上げました。

四畳半神話大系(第3話)より:夜のインクライン


湯浅監督と一緒に仕事をして、小説とアニメは相性が良いということを教わりました。常軌を逸した風景は実写では出来なくても、小説とアニメの中なら出来るんですよ。

■小説の中の京都、その凝縮されたイメージ

森見:
小説で京都の風景を書く時は、自分の好きな部分だけを集めて濃縮して書いています。アニメもそういうところがあると思う。


上田:
情報の取捨選択が行われているんですよね。賀茂大橋を渡ったところにオレンジ色の灯りの喫茶店があるっていうのは、実際の京都の地図が森見さんの頭の中でうまくデフォルメされた上で表現されている感じがすごくあって、すんなりと作業に入っていけました。


森見:
自分の見ている京都の風景を選別して、イメージを凝縮して書いているので密度が濃くなっているのかもしれません。


上田:
森見さんの『有頂天家族』の中で鴨川の土手に降りていくシーンがあって、これは京都に住んでいる人だったら分かってもらえると思うんですけど、そうそう、あそこから降りられるんですよねぇ!っていう独特の感じとか、橋のたもとの端っこからちょっと離れた草むらを斜めに入って、途中で「くね」って曲がりながら下に降りていくあの「くね」っていう感じとか(笑)。あの近くに美味い洋食屋あるんすよねぇとか(笑)。普通みんな言わないんだけど、みんな分かってるっていう感じ。それが小説の中にあるんですよ。


森見:
自分が京都に住んでいるから京都を書いたのですが、他の街はまだあまり書いていません。『ペンギン・ハイウェイ』が初めてです。


上田:
住んでいる場所からの影響はありますか?引っ張られるということは?


森見:
土台があるから上層を作れるというところはあります。京都は地名を出すだけで土台になってくれます。


上田:
物語を作る上で、面白い街とやりにくい街はありますよね。「東京」だと広すぎる。でも「下北沢」だといいサイズとか。その点、「京都」というのはサイズ的にちょうど合うんです。

■第4話:明石さんにはモデルがいた

上田:
「弟子求む」の回。何も起こらない。樋口師匠に引っ付いたあまり、まったくもって無益な2年を過ごすという話なんですが、実は一番好きな回です。憧れの女の人と新京極を並んで歩くというイメージを核にしました。


森見:
あの回の商店街で会う明石さん、可愛いですよね。


上田:
明石さんにもあまり思い入れがなかったとお聞きしましたが・・・?


森見:
アニメを見終わってから、明石さん可愛いなあと思いました(笑)。原作では主人公の「私」、小津、樋口さん、羽貫さんは安定要素、城ケ崎と明石さんは柔らかいというか不安定要素。


上田:
明石さんの立ち位置は難しかったです。主人公の手の届かない憧れの人という存在にはしないようにしました。だから焼肉頬張ったり、蛾に襲われて卒倒したり。


森見:
僕のデビュー作『太陽の塔』は恋愛要素としてはアンハッピー・エンドだったので、2作目は何とかしたかった。例のママチャリ琵琶湖一周の友人の妹がモデルなんです。会ったことないんですけど(笑)。なんか僕が彼の家に遊びに行くと、いつも逃げていく(笑)。そのことを友人経由で伝えてもらったら「何であなたにそんなこと言われないといけないんですか」と言い返されたとか何とかで、それで明石さんのモデルに(笑)。
迎合しない人っていうのか、ニーチェを読破しているような娘で、『この人を見よ』というニーチェがおかしくなる寸前に書いた本があるんですが、それを僕と友人が一緒に読んで面白がっていたら、その妹に「何をいまさら」って鼻で笑われたと後で彼に聞きまして…。
そういえば僕、イラストの中村佑介さんと会ったことないんですよ。


上田:
僕は1回か2回ありますよ。


森見:
そっか・・・。いつもすれ違いなんですよ。


上田:
中村さんはもう個性の塊みたいな人ですよ(笑)。今考えるとすごいメンツが集まっていたんですね。


(【その3】へ続く)
→その3 

*1:森見氏は京大体育会の「ライフル射撃部」に所属していた。

*2:四畳半神話大系』は最初は太田出版から単行本として出版され、後に角川文庫に収録されました。

*3:第1話冒頭の浅沼晋太郎氏による2倍速再生並みのモノローグは必聴の熱演。