【舞台探訪】映画『聲の形』 舞台ガイド(暫定版)+作品考察メモ(Part.1)

本稿は9月17日に公開された山田尚子監督の映画『聲の形』の舞台探訪記事(暫定版)+作品考察メモです。一本の記事で映画全編を紹介するのはボリューム的に不可能なので、ストーリー順に幾つかに分けてご紹介します。今回はそのPart.1です。

「舞台ガイド」の(暫定版)と銘打っているのは、DVD&Blu-Rayが発売されていない現時点(10月下旬)では特報や予告編のキャプチャーしかないため、掲載した写真のほとんどは映画を観た記憶に基づいて取材したものであり、キャプチャーつきの完全版に向けての第一段階の記事と位置づけているからです。「作品考察メモ」とあるのも、今後執筆するかもしれない作品考察のためのメモをストーリーの要所要所に備忘録として残しておくという趣旨です(執筆しない場合はここでのメモが作品考察記事そのものに昇格します(笑))。

従いまして、まだまだ(完全版)とは言えない記事ではありますが、ストーリー順に写真を掲載し、かつ出来る限り劇中のカットに合わせて撮影しています*1ので、あのシーンのあの場所はどこだろう?と知りたい方にとっては、てっとり早くご利用いただける記事になっていると思います。なお劇中のキャプチャーは場面の説明に不可欠な場合を除き、基本的に掲載しません。キャプチャーつきの舞台探訪記事は(完全版)にリニューアルするまでお待ちください。
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(上)映画公開後の"聖地"大垣コロナシネマワールドのロビーの様子。アニメの複製原画が展示されていました。

このようなコンセプトの記事ですが、写真に添えた場面の説明文や台詞を読み進めているうちに映画を追体験できるような記事になっていれば、作り手としてこれに勝る喜びはありません。掲載した写真の多くは映画公開後にあらためて現地を訪問して撮影したものが主ですが*2、一部は原作探訪時に撮影した写真を流用しています。あらかじめご了承ください。f:id:los_endos:20161017164535p:plain
(上)平成28年10月8日に大垣コロナシネマワールドで行われた舞台挨拶後の山田尚子監督と将也役の入野自由さんのサイン。


なお、大今良時さんの原作全7巻の舞台探訪+考察記事はこちらにあります。適宜ご参照ください。原作の考察も映画を読み解く上で多少は役に立つはずです。
またこれらの記事の中で私は手話の解説を幾つか試みています(拙いものではありましたが)。それらは映画の中にそのまま登場したものもあれば、異なる手話で描かれたものもあります。映画をご覧になったときに台詞や説明がなくて意味が掴み取れなかった手話の幾つかは、この原作版の記事でご確認いただけるかもしれません。合わせてご笑覧いただければ幸いです。 

・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第1巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第2巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第3巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第4巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第5巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第6巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第7巻


原作版で作成したマップ(地図)も映画版でほぼそのままご利用いただけます。ただし映画で初登場となった舞台も幾つかあるので、映画専用のマップもあらためて作成いたします(当記事の末尾に掲載します)。下記の原作版マップと合わせてご利用ください。
・『聲の形』(原作):舞台マップ

 


さて、舞台探訪の記事に入る前に、映画の感想と総括的な考察メモをここに掲載しておきます。舞台背景の写真や情報を早く知りたい方は、ここからしばらく長々と続く駄文は全部すっ飛ばして先へ進んでください。

*1:2016年10月22日時点で18回鑑賞しているので、それほど的外れの写真にはなっていないはずです。

*2:2016年10月8日~10日にかけて大垣・養老・岐阜を再取材しました。

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【舞台探訪】『聲の形』(原作):第7巻

【注意!】当記事では原作の内容の詳細について触れることになります。原作未読の方でネタばれを避けたい方はここから先へは進まないでください。

大今良時さんの漫画『聲の形』の舞台探訪の記事、最終巻となる第7巻の紹介です。

聲の形(7)<完> (講談社コミックス)

聲の形(7)<完> (講談社コミックス)

 

→前回までの記事はこちらです。
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第1巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第2巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第3巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第4巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第5巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第6巻

■第7巻について
硝子の慟哭に呼び覚まされるかのように長い眠りから目を覚ました将也。そして彼もまた導かれるようにあの橋へ・・・。『聲の形』全編のクライマックスです。

物語は佳境を迎え、やがて将也と硝子、そして仲間たちの進路と卒業、翌年の成人式の場面で終幕となります。


■舞台探訪 『聲の形』(原作):第7巻
※各シーンの場所情報はGoogle Mapにまとめてあります。各々の場所を確認されたい方は、当記事末尾に掲載しているMAPを拡大してご覧下さい。

■表紙絵 
第2巻の解説でも書きましたが、『聲の形』の表紙絵は各巻を象徴する場所を背景として左側に将也、右側に硝子の立ち姿が描かれ*1、二人の他には誰も描かれていません。
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そして第7巻の裏表紙で初めて、結絃、永束、植野、佐原、川井、真柴たちの姿が描かれることになります。「みんなのことをもっと知りたい」と将也の意識に変化が訪れたことを物語る印象的なカットです。

扉絵
養老鉄道車内
これは養老鉄道の車両内です。将也と硝子が養老公園へ遊びに行った日の光景でないことは、二人の衣服を見れば一目でわかります。f:id:los_endos:20160913194139p:plain
それにしてもこのイラストの静かな迫力には目を見張ります。まるでこの世ならざる場所への逃避行のようです。お互いの姿が見えていないかのように決して視線を交えることのない将也と硝子。こんなにも似ているのに、こんなにも近くにいるのに、見ている視線の方向はバラバラで、手を伸ばせば触れることもできる距離にいるのに虚脱したように無関心な様子は、お互いの心が大きくすれ違ってしまったあの日の心象風景なのかもしれません。真っ白に漂白された二人の姿は幽界の住人であるかのようです。f:id:los_endos:20160913194452p:plain
(上)表紙絵の左上に描かれている換気扇も実際にありました。

P.14 1コマ目
美登鯉橋 MAP 03f:id:los_endos:20160913205517p:plain

*1:第6巻のみ例外。これについては第6巻の記事を参照してください。

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【舞台探訪】『聲の形』(原作):第6巻

【注意!】当記事では原作の内容の詳細について触れることになります。原作未読の方でネタばれを避けたい方はここから先へは進まないでください。

大今良時さんの漫画『聲の形』の舞台探訪の記事、今回は第6巻の紹介です。 

聲の形(6) (講談社コミックス)

聲の形(6) (講談社コミックス)

 

→前回までの記事はこちらです。
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第1巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第2巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第3巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第4巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第5巻
→本稿以降の記事はこちらです。
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第7巻

■第6巻について
「私と一緒にいると不幸になる・・・」。その言葉に抗うかのように、硝子の前では笑顔で振る舞う将也。その姿を見るごとに募っていく硝子の苦悩。そんな硝子が選んだ決断は自分がこの世からいなくなってしまうことでした。転落する硝子の腕を命がけで掴む将也の脳裏をかすめる様々な想い。二人が出会っていなければこんなことにはならなかったのか。これは運命なのか。小学生時代の因果にどこまでも呪縛される二人。そして硝子の身代わりのように落下していく将也。果たして二人の未来は・・・。

第6巻は将也が意識を失っていることで物語の語り手が不在となります。そのため、この巻では登場人物ひとりひとりの内面に章が割り当てられ、彼もしくは彼女たちの独白が続きます。その「心のこえ」を語らせる構成が見事です。そして各章の語り手にそっと黒い天使のように近づき、まるで触媒のようにその心に変化を与えていく硝子。将也の不在を巡る巨大な空洞の周囲で登場人物たちの心の有り方が変わっていきます。

 

■舞台探訪 『聲の形』(原作):第6巻
※各シーンの場所情報はGoogle Mapにまとめてあります。各々の場所を確認されたい方は、当記事末尾に掲載しているMAPを拡大してご覧下さい。

表紙絵
美登鯉橋 MAP 03
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第2巻の表紙絵の解説で書いた文章を再掲します。

『聲の形』のコミックスの表紙絵は、毎回、その巻を象徴する場所を背景として左に将也、右に硝子の立ち姿が描かれています。将也の目線は一定ではありませんが、硝子は必ずこちら(本を手に取った私たち)を見ています。例外は第6巻で、この巻のみ将也の姿はなく、硝子がただ一人虚ろな表情で水底を眺めています。

第6巻では物語の語り手である将也がマンションの階上から落下して意識を消失しているため、この巻では実質的に不在となります。そのため、表紙絵からも彼の姿が「消えている」訳です。水底から透かして見たようにゆらゆらと揺らめき歪んだ美登鯉橋と四季の広場。ぼんやりと虚ろな目線でひとり佇む硝子*1の足下は水中に沈んでおり、彼女自身も揺らめく幻影のようです*2。将也の不在を前に登場人物の誰もが意識の奥底で揺らめく「心のこえ」と向き合うことになる第6巻の表紙絵は、これ以上ないほどの象徴性をもって本巻の本質を描き出しています。

*1:その視線の先は、画面左側にいるはずの不在の将也を見つめているかのようです。

*2:『聲の形』の原作はカバーをはがした書籍本体の表紙にモノクロの原画が描かれています。第6巻の本体表紙を見ると、カバーに描かれた絵の歪みや揺らめきが原画時点のものではなくエフェクトをかけられたものであることがわかります。

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【舞台探訪】『聲の形』(原作):第5巻

【注意!】当記事では原作の内容の詳細について触れることになります。原作未読の方でネタばれを避けたい方はここから先へは進まないでください。

大今良時さんの漫画『聲の形』の舞台探訪の記事、今回は第5巻の紹介です。 

聲の形(5) (講談社コミックス)

聲の形(5) (講談社コミックス)

 

→前回までの記事はこちらです。
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第1巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第2巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第3巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第4巻
→本稿以降の記事はこちらです。
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第6巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第7巻

■第5巻について
永束の発案で始まった夏休みの映画作りを通じて、周囲の仲間たちとの関係が次第に良好になっていくように感じていた将也。紆余曲折はあったものの仲間の想いがひとつになっていく。「ずっとこの輪の中にいたい」。将也はようやくそんな幸福な気分を味わえるようになっていました。しかし、ふとしたはずみに彼の心に芽生えた疑心暗鬼は抑えようのないほどに膨れ上がり、ついに暴発して仲間を傷つけてしまうことに・・・。そしてそのことは硝子をも追い詰め、やがてひとつの事件へと彼らを導いていくことになります。


■舞台探訪 『聲の形』(原作):第5巻
※各シーンの場所情報はGoogle Mapにまとめてあります。各々の場所を確認されたい方は、当記事末尾に掲載しているMAPを拡大してご覧下さい。

表紙絵
揖斐川河畔(仮) MAP 52f:id:los_endos:20160820200428p:plain
いきなり難題です。大垣市では毎年7月下旬の土曜日に揖斐川河畔で「大垣花火大会」が開催されます。ちょうど節目となる第60回記念大会にあたる今年2016年の開催日は7月30日(土)。うまくタイミングが合ったので、この花火大会を取材することができました。そこで表紙絵、および作中に描かれている風景の痕跡はないかと周辺を探索したのですが・・・残念ながら特定に至るだけの証拠を発見することはできませんでした。むしろこれは本当に揖斐川なのだろうか?と疑いばかり湧き起こってくる始末です。
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(左)【第60回記念】大垣花火大会のポスター。
(右)JR大垣駅の西美濃観光案内所でいただいた会場MAP。


そもそも河川敷で花火の観覧スペースとして用意されている場所の周辺に、この絵のような屋台が立ち並んでいる場所はありません。屋台があるのは観覧スペースから少し北側、上図(右)でいうと打上場の真西あたり、ちょうど点線の丸印の辺りです。ここは揖斐川西岸の道路を歩行者天国として開放している路上ですが、この場所から河川敷に降りることはできませんし、土手に座って花火を見るということもできません(打上場が間近で立入禁止の危険区域だからです。)*1f:id:los_endos:20160820204451j:plain
(上)揖斐川河川敷の観覧スペース。土手の上の道路上に屋台は一軒もない。
(下)観覧スペースの100mほど北、打上場の真西あたりの路上に立ち並ぶ屋台(北→南向きの写真)。

*1:ちなみに花火大会中、17:00~19:30まで車両通行禁止となるのは、岐大バイパスの新揖斐川橋、南側の揖斐大橋、それと両方の橋に挟まれた川の東西岸の道路です。これらは歩行者天国として開放されますが、打上場近辺の東西岸の土手から川までのエリアは、当日の朝9:00から翌朝7:00まで関係者以外の立入は禁止されます。

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【舞台探訪】『聲の形』(原作):第4巻

【注意!】当記事では原作の内容の詳細について触れることになります。原作未読の方でネタばれを避けたい方はここから先へは進まないでください。

大今良時さんの漫画『聲の形』の舞台探訪の記事、今回は第4巻の紹介です。 

聲の形(4) (講談社コミックス)

聲の形(4) (講談社コミックス)

 

→前回までの記事はこちらです。
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第1巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第2巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第3巻
→本稿以降の記事はこちらです。
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第5巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第6巻
・【舞台探訪】『聲の形』(原作):第7巻

■第4巻について
硝子を軸として次第に広がってゆく将也の人間関係の輪。それは、周囲を拒絶し"友達"を作ることに疑心暗鬼になっていた彼の意識に大きな変化をもたらしました。「友達を作ることは難しいことじゃない」。しかし、それは同時に「他人を知る」ことと「知った気になる」ことの狭間に横たわる深淵に直面することでもありました・・・。第4巻では植野、硝子の母、結絃のそれぞれの知られざる想いが語られます。

 

■舞台探訪 『聲の形』(原作):第4巻
※各シーンの場所情報はGoogle Mapにまとめてあります。各々の場所を確認されたい方は、当記事末尾に掲載しているMAPを拡大してご覧下さい。

表紙絵
ナガシマ スパーランド(観覧車) MAP 37

『聲の形』第4巻の表紙絵は、前半の主要な舞台となるレジャーランド「ナガシマスパーランド」(三重県桑名市)の観覧車前です。f:id:los_endos:20160814151019j:plain
細部が微妙に異なるのはこの作品の特徴なのでそれは良いとして、望遠気味に見えるこのカットを左右を入れてできるだけ忠実に再現しようと後ろに下がると、たちまち下の写真のように樹木に視界を阻まれます。なかなか手ごわい。
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表紙絵(裏)
ナガシマ スパーランド(キッズタウン) MAP 38
裏表紙のカットはキッズタウンの遊具(左からカイトフライヤー、中央奥にマジックバイク、右にダックス)です。狭く密集したように描かれていますが、実際には写真の通り、広々とした空間なので絵のような窮屈な印象はありません(※写真は右端を合成しています)。なお背後の建物は、それらしいものはあるにはあるのですが確証がないため掲載は控えます。f:id:los_endos:20160814152338j:plain
それぞれの遊具を拡大してみます。中央奥のマジックバイクのみ上掲の写真では止まっているので、別の写真から流用します。f:id:los_endos:20160814154702j:plain
場内MAPで位置関係を確認してみましょう。以下の緑色の丸印の番号、④カイトフライヤー ⑤マジックバイク ⑨ダックスです。撮影のアングルは赤の矢印方向。f:id:los_endos:20160814155404j:plain

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